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元群馬高専非常勤講師 細井 千代吉さん(伊勢崎市末広町)

【略歴】群大学芸学部(現・教育学部)卒。小学校、高校で理科教師を務め、病気療養中の子どもが学ぶ県立東毛養護学校前橋分校で指導し、定年退職。2002年3月まで群馬高専非常勤講師。

動物の異種間雑種



◎第一代に優れた形質

 テレビでも報じられ、二十日の本紙に栃木県那須町の那須サファリパークで生まれた「ジンキー」のことが小さいながら記事になりました。シマウマ(縞馬)の父とロバ(驢馬)の母の間に生まれた雑種(正式には種間雑種)で、シマウマ(zebra)の「ze」と、ロバ(donkey)の「nkey」から『zenkey』と名付けたものです。

 ジンキーは八日朝に生まれ、「世界で実在する唯一のジンキー」だそうです。体のほとんどはロバのように薄茶色で、足だけはしま模様で細長く、顔はシマウマに似ているが、耳はロバの形をしているそうです。記事の中で、ジンキーと片仮名書きしたものを学名としていますが、これは誤りです。学名という場合は国際的な命名規約に従った名であって、普通ラテン語またはギリシア語で書かれたものをいいます。ジンキーはシマウマとロバの英名の組み合わせですから、英名のカタカナ語であって、一応は和名ということになるでしょうか。

 このような哺乳(ほにゅう)動物という高等な動物での異種間での雑種の例としては、古くからラバ(騾、騾馬、mule)が知られています。ロバもシマウマも、ウマ科の中のそれぞれの種(種類)ですから、このような雑種は種間雑種と呼ばれ、珍しいことになります。つまり、種とは「個体間で交配が可能な一群の生物」のことであって、同種内の個体間では子孫ができるが、異種の個体間には子孫ができないのが普通なのです。

 ラバは、家畜の雌ウマと雄ロバの間に生まれた一代雑種で、紀元前七世紀のメソポタミアの壁画にラバと思われるものがあるそうです。体形は頭部と体の前半はロバに似て耳も長いが、鬣(たてがみ)はロバより長いのが普通です。体の後半はウマに似て、尾毛も基部から出て長いけれど、毛の量は少ないといいます。雑種強勢といって、雑種第一代が両親よりも優れた形質(この場合、おとなしく、体が丈夫で粗食に耐え、よく働く)を現すので、有用な動物ということになります。

 ただし、雄ラバにはほとんど生殖力がなく、雌ラバにはまれに生殖能力のあるものが見られる程度のようです。ということは、ラバは一代限りの動物であるから繁殖用のロバとウマが必要になります。染色体数はウマもロバも同じ六十六ですから、種は異なっても雑種ができるということは納得できそうです。なお、驢は一文字でもロバ(ウサギウマ)を意味し、おとなしく小形の馬ということなのです。ラバとは反対に雌ロバと雄ウマとの雑種はケッテイといい、優れた形質を持ち合わせないので利用価値はありません。

 ネコ科の動物の異種間雑種には、雄のヒョウ(豹)と雌のライオン(獅子)の一代雑種レオポンというのがいます。昭和三十四年に阪神パークで雄雌二頭が生まれたのが世界で初めてで、六十一年には雄一頭と雌二頭が生まれました。全身に豹紋があり、雄にはライオンに似た鬣もあって、体は豹より大形だそうです。レオポン『leopon』という名は、豹(leopard)の「leop」とライオン(lion)の「on」によります。染色体数もライオン三十八に対して、異種間なのに雑種が生まれたのですから、ヒョウも同数ではないかと推測しています。この雑種も一代限りで、繁殖能力はありませんし、学術的な価値はありますが、特に有用な動物とはいえません。

(上毛新聞 2003年8月30日掲載)