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まちづくりコンサルタント・コモンズ主宰 庭山 由紀さん(桐生市新宿)

【略歴】日本大大学院博士後期課程修了。農学博士。一昨年はオリジナルカレンダー「桐生楽暦」や目的別地図「桐生楽地図」を製作するなど快適な桐生暮らしを追求。県一郷一学の講師なども務める。

名水ブーム



◎地域の水を取り戻そう

 今、名水ブームのようで、企業や自治体が水を売り出している。確かにスーパーに行けば、ペットボトルに入った各地の水が並んでいる。

 水は生命の源であり、私たちの生活は水なしには成り立たない。また水は地域の資源であり、地域で暮らす人びとがそこで生活し、生活を維持していくために必要なものである。人工的に作られたモノではない。天からの恵みである。そういうものは貨幣的価値では十分に評価するのは難しいのではないだろうか。それを市場経済にのせて良いものなのだろうか?

 市場を中心としてとらえる経済の理論が当てはまるのは、工業製品や人工物についてだけである。工業製品は原料に天然資源を用いるが、天然資源そのものの価値は計算しない。ある工業製品に対してどれだけ人びとが需要を求め、それに使う天然資源がどれだけ希少なものであるか、ということから価値を計算する。

 だから例えば、希少性のない天然資源である空気は、どんなに重要であっても価値を認めない。しかし、大気汚染が深刻な問題となった時には、酸素ボンベが必要となり、売り物となる。つまり、天然資源の経済価値が算出されるということは、希少性が評価され、自然環境の状態が悪化し、自然環境の循環が困難な状態になることを意味する。

 これらのことから天然資源である水を考えると、いよいよ水は希少性を評価され「名水」となり、これは水を取り巻く環境の悪化、そして水質自体の悪化を意味していることが分かる。上水道の水質について問題が取りだたされながらも、その問題はそのままの状態で、おいしいとされる「名水」を遠方から運び販売される。そして、「名水」が販売されるときには、その「名水」を製造するにあたっての処理費用と、それを運搬する費用が加算される。

 群馬は緑豊かな山と滔々(とうとう)と流れる河川に恵まれ、水に恵まれた地域である。ちょっと前までは、山の水や湧(ゆう)水、小川の水、井戸の水などを飲料し、そしてその水はおいしかったはずである。それとも、ふるさとの水の味を忘れてしまったのだろうか。さらに、私たちは基本的に地域の水を飲んで命を継続させ、いろいろな水をいろいろな方法で利用し生活を維持してきた。

 では、なぜ地域の水がまずくなったのか、飲めなくなったのか、汚いと感じるようになったのか。遠方の名水を探すより、それぞれの地域で自慢の名水を取り戻すことの方が大切ではないかと思うのだが。

(上毛新聞 2003年8月27日掲載)