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◎四囲の環境を味わう 梅雨が明ければ、暑い夏になり、人々は夏休みの間に海に山に、また海外へ旅行するだろう。江戸時代の日本人は平均余命が四十から五十歳であったが、旅行好きは今と変わらなかった。最も人気があった旅行はお伊勢参りであった。松尾芭蕉は「奥の細道」を俳句旅行した。 近代化して百数十年の間に日本人の寿命は約二倍になり、世界に冠たる長寿国になった。しかし、気になることは日本人の「忙しい、忙しい」というライフスタイルだ。 人間には定住性があるか、流浪性があるか、どちらだろうか。さ迷い歩くのが本質かもしれない。なぜなら古来、人は旅人であったからだ。高い文明を求めて移動し、文化が交わる。こうした人類は悠久(ゆうきゅう)の歴史をとおして優れた文化を吸収し、進化を続けた。 現代人も、もちろん旅人である。パスポートにいくつ、出入国のスタンプを押してきたことか。そのたびに多くの文化を吸収する。国の内外を問わず、外の世界を見ることは貴重な体験になる。 英国の夏は素晴らしい。ほとんどクーラーは不要だ。木々は緑を滴らせ、芝生は四季を通して青々としている。天気が良い、ある夏の午後にグリーンパークへ行くと、そこはロンドンのど真ん中であるにもかかわらず、人々はサンドイッチをほおばり、デッキチェアーに寝そべり、日光浴を楽しむ。そのためか、表通りはひっそりと静まる。 そこを、せこせこ歩くのは団体ツアーのわが同胞。はるばる十二時間のフライトにもめげず、元気いっぱいにあれを見よう、ここに行こう、お土産をどうしようと、好奇心に満ち満ちている。だから、当然に歩くスピードは速くなる。デッキチェアーに寝そべらない。なぜなら時間がもったいないからだ。こうしてお土産をスーツケースに満載して帰国の途につく。お土産のほかに、お気に入りのブランド品もある。お土産品、ブランドももちろん固有な文化の結晶だ。故郷で見せびらかすのもいい。なぜなら良い物はいいからだ。 でも、ちょっと待ってほしい。一度、グリーンパークの芝生に寝転んでみることだ。デッキチェアーに座ってほしい。英国人は何とゆったりした毎日を送っているかが初めてわかる。英国人の平均給与は日本人より低いが、生活の質は豊かで時間はゆっくり過ぎる。 あくせくと歩かなくて良いじゃないか。亀のようにゆったり、右を見、左を見て臭いをかぎ、すべての感覚で四囲の環境を味わいたいものだ。 地球は大きいし、世界は果てしない。もちろん日本は沖縄から北海道まで、亜熱帯から亜寒帯まで広く、また自然豊かだ。よその世界を知り、良いと思うライフスタイルはどんどん取り入れればいい。旅行は絶好の機会になる。 (上毛新聞 2003年8月4日掲載) |