視点 オピニオン21
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県環境アドバイザー 中村 文彦さん(吉井町本郷)

【略歴】日本大中退。ホテル専門学校を卒業後、東京都内の都市ホテルに勤務。1994年、吉井町にIターンして無農薬、無化学肥料による有機農業を実践中。環境問題などに関する講演も行っている。

まちづくりは人づくり



◎自らが人生の主人公

 今年は、統一地方選や知事選がありました。私たちの地域でも議員候補者たちが、これからの地域や群馬のことについて、さまざまな公約を掲げました。

 その中で、特に印象に残ったのは「まちづくり」という言葉ではなかったでしょうか。私も地域や行政と協力して、まちづくりに関する提言やその方法について、さまざまな立場の人と協議をしています。しかしながら、「まちづくり」という言葉のみが先行し、私たちが本当に望む形のまちづくりが進行しているかといえば、少し疑問にも感じるのです。

 「まちづくり」といえば、今までは都市計画であり、施設整備であり、中心市街地の活性化であったのではないでしょうか。でも、本当のまちづくりを考えると、子や孫が暮らす時代に今を生きる私たちが何を残せるのかが大切だと思うのです。この世に生を受けた意味の本質を考えてみると、命をつなげるというか、永続可能な世界を残していくことが使命だと思うのです。

 私たちの“いのち”の本質は、他の動物や植物と同じように、次の世代へのバトンだと思います。そこには、目には見えない生きる知恵があるのではないでしょうか。

 戦後の焼け野原から五十八年、私たちの祖父母や父母が築き上げてきた、この国の経済的な繁栄のおかげで、さまざまな恩恵を受けてきました。そして、時代は変化し、街も移り変わりをしてきました。変化というものは必ず起きることで、それに逆らう必要はありませんが、十数年前にバブル経済という虚栄が崩壊し、戦後ずっと続いてきた右肩上がりの経済が、未来永劫(えいごう)続くものではないということを、私たちはやっと気づかされたはずです。

 そんな中で、さまざまな立場の人から「まちづくり」の言葉が多く聞こえることは、とても素晴らしいと思います。ぜひとも、本当の意味での「まちづくり」をしていきたいものです。「まちづくり」とは何かと考えれば、誰もが思う幸せな社会のイメージを現実として具体化していくことではないでしょうか。幸せな社会のイメージは、誰も皆そんなに変りはないはずです。例えば、行ってみたくなる街、住みたくなる街、子供を育てたくなる街、思いが実現しそうな街、経済的にも活気がある街などなど、考えれば同じようなイメージが浮かぶのではありませんか。

 どうぞイメージしてみてください。普段の生活でさえ、イメージしたことのほかには、思いが実現することはないはずです。できない理由を並べることは簡単です。でも、どうしたらイメージした社会が実現していくのかを、誰に頼ることなくさまざまな立場の人たちが得意な分野で力を合わせて、未来を築いていくべきだと思います。

 イメージしてみてください、あなたは子どもたちに何を残したいのでしょうか。「まちづくり」はまず人づくりです。そして、その主役はあなたなのです。一人一人が生き生きと暮らすことから始まるのです。あなたの人生の主人公は、やはりあなたなのですから。

(上毛新聞 2003年7月25日掲載)