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◎心地よい環境づくりを 世はあげて「健康ブーム」。テレビはどのチャンネルでも、新聞雑誌も広告欄でも、ビラもチラシも「体にいい」とうたい上げるものが氾濫(はんらん)している。全国のスーパーや食料品店の棚が、一夜で空になるほど関心が高く、テレビ番組に出ているみのもんたさんをトップスターにのし上げた。「健康のためなら、死んでもいい」という人もいるというから、どうなっているのだろうと思う。 健康とは、心身ともに健やかで異常のないこと、健全ということだが、最近はもっぱら体の健康、しかも体の一部の維持向上を問題にするようだ。そして、その部分がどうして壊れる(病気になる)かを取り上げている。その方が、より科学的ということなのだろうか。それはそれで意味はあるが、われわれがほしいのは体全体の健康とバランスの維持なのだ。心の健康とバランスの維持はともに保たれなければならない。健康があまりに狭義的に使われて、部分的、身体機能的に偏り過ぎた結果、いわゆる木を見て森を見ない類になってはいないか。 近ごろ桐生川畔に病院が建った。明るくしゃれた外観、スペースもなかなかいいが、病院というより健康相談所ともいえる雰囲気がいい。というのは、生活講座や時機に則した新型肺炎などの講座も一般開放している。体力維持のための簡単ストレッチングとか筋力トレーニングも、専門職がマンツーマンで指導し、今のところ無料で実施している。もちろん、病院としての機能・設備は整っており、デイケアなども充実している。これからの病院の在り方を示唆しているともいえる。 健全なる精神は健全なる肉体に宿るといわれるが、五体不満足でも素晴らしい精神を持っている乙武洋匡さんのような人もいる。満足な肉体でも、恐ろしい犯罪を起こす人もいる。不健康な生活を続けながら、健康食品を山ほど飲む人もいる。本来の意味での「心身の健康を保つ」ということはなかなか難しい。 ところで、身障者に対して健常者という言葉がある。障害がなく健康な人ということだが、健康を保つことはそう簡単ではない。数十年使った機械は、あちこちが悪くなる。それが自然なのだから、常に心も体も元気で充実しているということは、よほど日常注意をはらって過さねば確保し難い。そのためにも、自分たちの身の周りから環境づくりを始めるべきだ。進んで他人の役に立つ、他人と積極的に仲よくする、自分のことは自分ですることなどは、心にも体にもよく、誰にとっても心地よい環境となるはずだ。 健康は、体にいいことを追いかけ、獲得することを目的にするのではなく、心身ともに健やかに過ごすことによって、自立や互助や共存が楽しくできる、一つの手段である。心身ともに健康でありたい。 (上毛新聞 2003年7月19日掲載) |