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◎健康診断を受けよう 私が大学病院に勤務していた時に、出産を直前にした女性が「歯が痛い」と言っている、と産科病棟から呼び出しを受けました。病室に行って妊婦さんの口の中を見ましたら、親知らずの周囲がかなり腫(は)れていました。口の中全体を見ますと、この歯のみならず、ほかにも虫歯の穴が多くて、どこが痛くなってもおかしくない状況でした。出産直前では応急処置しかできず、病棟を後にしました。 長い渡り廊下を歩きながら、「果たしてこの女性は結婚前に健康診断や歯科検診を受けたのかしら」「新しい命を生み育てる親としての責任や自覚はあるのだろうか」と思ったものでした。 確かに社会のシステムとして結婚前の健康診断は個人に任されています。多くの結婚情報誌が発行されていますが、このことに言及している物をなかなか見かけません。結婚前の健康診断の必要性を知らない若者の方がむしろ多いようです。 妊娠をすると、母子手帳の発行を受けます。そして妊娠中に健診を受けることとなります。しかしながら、妊娠してからでは容易に根本治療ができないことが多いのです。 大学病院の妊婦さんだけでなく、実は妊婦さんに根本治療ができないということは、多数の方々であることです。とりあえずの応急処置をして、「出産してからきちんと治療しましょうね」と言い続けてきました。 しかし、核家族化が進んでいる今、妊婦さんは出産後、乳飲み子を持つ母親として育児に追われ、自らの治療を受けることが難しくなってしまうのです。私は最近では、若い女性を見つけると、結婚前に健康診断(風疹=ふうしん=抗体や貧血などの血液検査)、歯科検診と治療を完了するように説教をしています。 二〇〇一年に生まれた赤ちゃんの四人に一人は結婚前妊娠(「おめでた婚」、いわゆる「できちゃった婚」)だったとの報告(人口動態統計)があります。これは、十年前の二倍、十代での出産の83%、二十―二十四歳での58%とのことです。こうなると、女性の健康診断も、もっと早くする必要があるのかもしれません。 女性が社会に広く進出し、仕事、結婚、妊娠、出産の様相も多様化してきています。選択肢が多くなった分、ストレスを抱え、病気になる女性も増えています。このような時こそ、周囲に流されることなく、まず自身の体を大切にし、つなぐ新しい命を育(はぐく)むことに夢を持つことができればと思います。 (上毛新聞 2003年7月11日掲載) |