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◎評判良くない言葉遣い 先日、文化庁の「国語に関する世論調査」の新聞記事が目に留まりました。この調査は平成七年度より毎年行われていて、インターネットで文化庁のホームページにアクセスするとその結果を閲覧することが可能です。早速平成十四年度の結果を見ますと、興味深いのは八割超の人々が日本語の乱れを感じているという結果でした。 “言葉の使い方”では三つの言い方を挙げ、それが気になるかどうかを平成八年の調査と比較しております。「あしたは・休まさせていただきます」、「お会計・のほう、一万円になります」、「千円・からお預かりします」のすべてで“気になる”が増加しているとのことです。いつのころからか、ファミリーレストランやコンビニエンスストアで会計の時に言われるようになり、面白い言い回しをするものだと奇妙に感じておりましたが、これほど多くの人が同じ思いを抱いていることに驚きながらも安堵(ど)しました。 最近、僕のかかわる医療社会においても“言葉の使い方”で同じような違和を感じていることがあります。それは、すでにお気づきの方もおられるかと思いますが、病院で従来からの患者さんという呼称が患者“さま”に替わったことでした。いつごろから、あるいは誰が言い出したか分かりませんが、あっと言う間に全国的に広まったようです。 そもそも医療は第三次産業、すなわちサービス業ですから顧客=患者という概念でいうと“さま”をつけるのは当然とおっしゃる方もいることと思います。しかし、日本語の使い方としてはどうでしょうか。金田一春彦さんの著書『日本語を反省してみませんか』(角川書店)に興味深い一文がありましたので紹介します。 ―「患者さま」と言われるのはなんとなく落ち着かない。なぜなら「患者」という言葉自体がすでに悪い印象を与えているため、いくら「さま」をつけてもらってもうれしくない。「病人さま」「怪我(けが)人さま」「老人さま」などいくらがんばっても敬うことにならないのである。― まさしく、これが違和感の原因の一つかもしれません。しかし「国電」が「JR」に替わったように、“患者さま”にもいつか慣れてしまうような気もします。 やはり本質的なところは“さま”を強制されて付けるのか自発的に付けるのか、にあるように思えます。確かに昨今の相次ぐ医療事故の報道、そして繰り返される保険制度の改定に医療の現場は未曽有の危機を迎え、まさしく病院淘汰(とうた)の時代が来ています。そこでサービス意識改善という名目で「明日から患者さまと呼びましょう」ということになったのでしょうが、患者さんからは「急に他人行儀になったようだ」、「慇懃(いんぎん)無礼な感じがする」等々決して評判も良くありません。 僕は医療におけるサービス向上とはマニュアル化された丁寧な言葉遣いではなく、一人ひとりに応じた接し方で、またちょっとした気遣いで不安を和らげ、そして何よりも質の高い医療を提供することだと思っております。“患者さま”と書かれたトイレに入ったら昨日までとまったく同じじゃないか、と言われないためにも。 (上毛新聞 2003年7月8日掲載) |