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◎ブラックタイが必須 毎年十一月中旬にモナコで開催される国際陸上競技連盟の行事に「アスレチックGALA」というのがあります。モナコの皇太子が参加して年間最優秀選手の表彰式のプレゼンテーターになるとか、ライブでヨーロッパ中にテレビ放送されるとか、参加するにはブラックタイでないといけない行事です。ということは、タキシードで蝶(ちょう)ネクタイ、カマーバンドに襟の立ったヒラヒラワイシャツを着て参加しないといけないのです。アカデミー賞とかグラミー賞って感じでしょうか。スポーツも文化なのですね。 金沢イボンヌ選手(群馬綜合ガードシステム)とこの話をすると、いつでも参加できるようにイブニングドレスを三着も購入済みであるが、いまだ機会に恵まれていないのだそうです。日本でも頻繁にこのような行事をしてもらいたいと話していました。Jリーグはしていますよね。 さて、二〇〇二年に一度だけ参加した経験を述べます。まず招待状を見ると確かに一番下にありました。自分の人生において、今まで見たこともない「ブラックタイ」って文字が。 会場へはホテルからバスが出るとの連絡で、七五三のような慣れない衣装を着て、恥ずかしい気持ちでロビーに向かいました。するといるではないですか、着飾った男と女がぞろぞろと。私は室伏広治のタキシードを着るのを助けて二人で向かいました。彼に紹介してもらった円盤投げ昨年度世界ランキング一位で世界記録まであと少しの、ハンガリーのファゼカス選手と三人で記念写真を撮りました。いやいや美男子の間に入った私は捕らえられた宇宙人のようでした。 この時は国際陸連九十周年記念ということもあり、参加している選手も豪華でありました。世界で初めて背面跳びをしたフォスベリー(USA)とか、四百メートル世界初の四十三秒台を記録したエバンス(USA)とか、メキシコオリンピックの表彰式で黒手袋握り挙を掲げた二百メートルのスミス(USA)など、歴史に残る選手がたくさんいました。シェビンスカ、オーター…。挙げればきりがありません。その中に堂々とブブカの横に室伏広治が座っているのも頼もしく思えました。 本当にテレビで見るアカデミー賞やグラミー賞のような感じで式は進み、二〇〇二年の最優秀選手は、男子はモロッコのエルゲルージ、女子はイギリスのラトクリフでした。いやいや両者ともかっこいいしきれいです。映画俳優や女優のようです。 そして、食事をしてバンドの登場です。なんと大好きなユッスー・ンドゥール登場。私は、ここ数年気がめいると彼のCDを聴いているのです。国体の期間も縁起を担いで聴いてます。後日聞いた話ですが、彼がまだデビュー前で衣食住に困っていた時、国際陸連のラミン・ディアック会長がガレージに住まわせてあげたのだそうです。数曲演奏後、食事の終わった大勢の人は帰り始めました。数百人いた会場が三十人程度になったでしょうか。目の前の人たちが次々と舞台に上がり始めました。踊っています。楽しそうです。私も下でモジモジしていたらディアック会長が「上がったら」と言ってくれたので、悩まずに上がりました。 本当に楽しい夜を過ごせました。ブラックタイで過ごせました。日本の陸上界にもこんなパーティーがあればいいと思いました。 (上毛新聞 2003年7月2日掲載) |