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◎命を実感した子どもたち 小学生にとっては「老い」とは遠い問題である。まして三年生が「老いをみつめる」ことができるのか。浅川陽子教諭(お茶大附属小)はこの問題を新単元に組み立てたいと考えた。 「老人とは何かができなくなる人」というマイナスイメージを乗り越え、生きて年を重ねることへのポジティブな思考を育(はぐく)めるのではなかろうか。 子どもたちには「年をとるということ」について祖父母や知り合いのお年寄りに取材させ、取材の中で気づいたことを文章にまとめさせた。「研究ノート」とタイトルをつけた画用紙は、インタビュー記事や祖父母の写真、イラストなどで工夫が施されていた。子どもたちはこのノートを手に朝の会で発表しあい、仲間と体験を交流しあった。 どの祖父母も、人生で一番悲しい出来事として戦争体験をあげ、たくさんの命が奪われたことをあげているのに気づいていく。子どもたちの意識は「老い」から「命」に向かう。これを敏感に察知した浅川先生は「命」に焦点をあてる教案に書きかえた。子どもとともに授業をつくり出していく柔軟性は素晴らしい。実行力はもっと素晴らしい。浅川先生はすぐに「新老人の会」の会長の日野原重明先生(聖路加国際病院名誉院長、九十一歳)に電話をかけた。子どもたちに命について授業をしていただけないかと。日野原先生はこれを快諾された。 公開授業の当日、大勢の見学者に囲まれた教室で日野原先生は箱から二十本の聴診器を取り出された。四十人が二人ずつ組になり互いの心拍を聞き取るためだ。子どもたちは聴診器から聞こえてくる心音に耳を澄ませ、命を実感した。心臓は生きている間、少しも休まずリズムを刻み続け、大切な栄養をからだに送っている! 子どもたちの耳が心音をとらえた瞬間にその表情はパーッと輝いた。 この小学校ではどの学年でも授業の締めくくりに自分の学びを振り返らせる時間を設けている。浅川先生は授業の終わりに「日野原先生に感謝のお手紙を書きましょう」と告げた。周りを色紙で縁取ったB6判のお手紙用紙を受け取ると、子どもたちは思い思いに鉛筆を走らせた。 「年をとるということは、自分がなにもしないで、とるということではなく、ちゃんと仕事か何かをやりとげて、はじめて年をとる」(なつみ)「死については、まだ、よくわからないけど、死ぬということは、階段を一段のぼったことだと思う」(あかり)「命は自分が生きていくうえで、大事な道具。とっても大事なもの」(なつこ)「命に限りがあるから、私は生きているあいだで、できるかぎりのことをしたい」(まりな)「命は大切だということはわかっていました。でも、命をどう使うかなんて九年間一回も考えてませんでした。ぼくは命を大切に使うことが一番だと思いました」(健人)。ボードに張られた手紙には、浅川先生と日野原先生の思いがちゃんと伝わったことを示すことばにあふれていた。 (上毛新聞 2003年6月20日掲載) |