視点 オピニオン21
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関東学園大経済学部経営学科教授 入江 省熙さん(太田市飯塚町)

【略歴】韓国ソウル延世大卒。北海道大大学院経済学研究科経営学専攻博士課程修了。マーケティングを専門に、国内や米国、韓国の市場を観察、ユニークな視点で解明している。

体感したい“豊かさ”



◎基準定める絶好の機会

 世界平均的にみても間違いなく日本は豊かな国であり、国民である。少なくとも経済統計的にみる諸データはそう示している。しかし、その豊かさを一般庶民は体感できない。なぜだろう。私のいく各種講演会や大学の授業において、自分は豊かですかと聞いても誰一人素直に手があがらない。海外に滞在する間必ずといっても良いくらい私は現地の人たちに同じく聞いてみる。どの国へいっても日本は豊かな国であり、日本人は良い暮らしをしていると答える。また、日本より経済状況が良くない国であっても豊かな暮らしをしていると答える人は日本よりは間違いなく多い。

 他の国の人たちと日本人の間でそのような見解の差があるのは“豊かさ”に対する定義と基準が違うからであると私は考える。つまり、豊かさの対象が富であるか、精神的なものなのか。また、個人的な価値判断なのか、他人との比較によるものなのかの違いであろう。

 戦後この日本社会は根拠のない安全神話に誰もが疑いをもたないまま、急成長に引きずられて、短期間で高度成長を成し遂げた。精神面においての豊かさがその意味を構築する前に富の蓄積が先行してしまったのである。もっとも悪い流れになってしまったのがバブル時代であったといえよう。急激な資本主義の導入がバブル経済の崩壊とともにその問題をあらわにしたともいえよう。さらに何事も他人との比較によって優劣が決まってしまうような構造にした偏差値による学校教育にもその問題点は指摘できよう。

 各種ペーパーにおいて筆者は“ピンチだからこそチャンスである”と力説している。その意味とは、高度成長と急激な社会の変化がもたらした各種時差(人の精神的進歩と富の大量流入)を調整するに、今日は願ってもない好機である、とのことである。プロのスポーツ選手はけがをして初めて賢くプレーができるようになると口をそろえていう。つまり、無駄な動きがけがの原因であったと考えている。そして一流のプレーヤーになる。バブル経済の崩壊後の不況は思った以上に深刻なものになっている。それは多過ぎた無駄な動きと簡単には埋まらない時差が高度成長の陰にあったからであろう。今日のような経済状況は一流プレーヤーになれる絶対的な好機であろう。

 現時点における精神的な状況から豊かさの基準を定め、無駄の少ない富の価値を創造していくようにすれば、今日のような経済停滞は願ってもない良き時間に化けられる。

(上毛新聞 2003年6月14日掲載)