視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
元群馬高専非常勤講師  細井 千代吉さん(伊勢崎市末広町)

【略歴】群大学芸学部(現・教育学部)卒。小学校、高校で理科教師を務め、病気療養中の子どもが学ぶ県立東毛養護学校前橋分校で指導し、定年退職。2002年3月まで群馬高専非常勤講師。

植物名



◎親しみ覚えるその由来

 人間同士でも名前を知ると親しみを覚えます。今回は、そういう意味で植物の名前を幾つか紹介しましょう。

 バラ科の「ハマナシ(浜梨)」がナス科と間違われそうなハマナス(浜茄子)という名で通用していますが、かのシーボルトも著書に「海岸生のナシの意」と書いています。ハリエンジュ(針槐)、別名ニセアカシアをアカシアと呼ぶのも正しくはありません。

 イヌフグリの果実は犬の陰嚢(いんのう)そっくりです。膨らみがあって垂れているものを「フクロ、フクリ」と言ったことから、「フグリ」の語に変化したようです。マツボックリ(松毬)のことも「マツフグリ」と言います。ラン(蘭)は、ラン科の植物の総称ですが、英語ではオルキスまたはオーキッドと言い、このオルキスの語源は、ギリシャ語で「睾丸(こうがん)」という意味です。根に丸い球が二つついていることによります。また、医学では睾丸炎のことをオルキティスといいます。ランのことをウオーキング・プラント(歩く植物)ともいいます。二つの球のうち大きな方が花をつけ、用が済みと次第に腐って、小さい方が翌年花がつけるので、花をつける茎の位置は年々二センチほど移動することになるからなのです。刺(とげ)だらけの蔓(つる)草ママコノシリヌグイ(継子の尻拭い)や、葉に異臭があるヘクソカズラ(屁糞葛)なども嫌われる名前ですね。

 アヤメ科のアイリスの名は、虹の女神イリス(iris)に由来し、花の色が七色の虹を思わせるほど多彩で鮮やかなことによります。この虹の女神はゼウスとヘラの従者として、虹の架け橋を上下して天地の間を往来し、やがてこの女神が地上へ降りて姿を変えたのがイリスであることから「使者、使命」という花言葉も生まれたそうです。デンドロビウムは、ギリシャ語デンドロン(樹木)と、ビオス(生活)からなる名で、樹木に着生する植物という意味になります。

 ゲンジスミレ(源氏菫)は、葉の裏側が紫色なので紫式部↓源氏物語となり命名されました。クローバーとも呼ばれるシロツメクサ(白詰め草)は、江戸時代にオランダ船がガラスの器物を運ぶときに、破損防止のためにこの枯れ草を詰めてきたことによります。ヘチマの語源は、中国名の絲瓜(イトウリ)が、「トウリ」となり、「ト」は、イロハの「ヘ」「チ」の間、ということなのです。

 ユリ科のワスレグサ(萱草)は、この花を見て憂いを忘れるという中国の故事に基づく名前で、萱の字には忘れるという意味があるのです。ムラサキ科のワスレナグサ(勿忘草)は、私を忘れるなよという意味の名前で、勿は「なかれ」です。英語ではforget me notと言います。間違いやすいからでしょうか、牧野富太郎先生は、ワスルナグサとしています。

(上毛新聞 2003年6月5日掲載)