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◎心の原点教えてくれる 若王子(やこじ)の森にはいろいろな生き物が集まっています。羽休めにカモが来たり、餌(えさ)を求めてサギやカワセミもやって来ます。また水のあるところには必ずガキンチョがやって来ますし、ご近所のお年寄りや幼い子ども連れの親子も。皆一様に「こんなところにこんな良い場所があるんだ」と言ってくれます。残念ながら鳥語は理解できませんが、たぶん鳥もそう言ってるのでしょう。何かを求めて足を運んでくることに、鳥も人も同じだなあと思いました。夕日差す風景や水が流れる音、草や土のにおい、池に光る銀鱗(りん)はあるがままの自然の姿。そこに触れると心に生きる力がわき、素直になることができる…。若王子の森は心の原点を教えてくれます。 今日は若王子に集まる生き物のうち、正月も足を運ぶガキンチョを紹介します。皆、近所の釣り好きガキンチョで最初はワアワアとやかましく遊ぶだけ。ごみは散らかすし、大人をなめた口をきくし、すぐに「くれ! くれ!」と言う、ありふれたガキンチョでした。そんな彼らの目にとまったのは、山田さんやカナさんたちの大人。炭焼きをしたり、竹で食器を作ったり、木彫りをする姿に興味を持ったらしいのです。火や鋭い刃の道具を自在に操るのは魅力がありますからね。やりたいという気持ちが芽生えた彼らには、責任を持って行動できるための修業が課せられました。あいさつはきちんとする・道具は大事にする・話をよく聞く・周りに注意をはらう―などです。放課後毎日、池の周りに捨てられた釣り糸やビニール袋の片づけをするだけでなく、遊びに来た人たちに指導や案内、若王子の水源である農業用水路の清掃、鉈(なた)で薪(まき)割りなどの修業を積みました。不注意や話を聞かないせいでケガしたり、他人に迷惑をかけたら、何が原因だったかわかるまで正座までして…。大人でもなかなかできないことですね。今ではいろいろな道具を自在に操って小屋をつくるまでになりました。そのガキンチョたちとは、体が大きく存在力いっぱいのハセガワくん、甲高い笑い声でタオルを頭に巻いたアオキくん、手先が器用でケンカも強いダイキくんたちのことです。今では若王子の森の名物? ですから、遊びに来たら声をかけてあげてください。彼らを見ていると大人がしっかりしないとイカンなと自己を見つめてしまいます。 先日、玉村で町長選挙がありました。炭焼きを一緒にした渡辺氏が「ホタルの里で地域活性化」や「各学校区のビオトープ(自然再生)」などの公約を掲げて立候補し、初当選しました。また、若王子の炭や堆(たい)肥、ホタルのすむ農業用水を使って農業をするための畑や機材を無償で提供してくれる方も。子どもたちが自然に触れる原体験をと始めた地道な活動ですが、いろいろな年齢や経験、出身の人たちが群れることで新しい地域づくりの試みになろうとしています。もしかすると閉塞(へいそく)感や孤独感、焦り、苛(いら)立ちは自らが勝手に心に描いているのかもしれません。自然や自分と真っすぐに向き合うことによって、生き方も生活も地域も変わっていくと信じ、シリモ(アイヌ語で天候が穏やかで静かな様子)な群れをつくっていきたいと思います。 (上毛新聞 2003年5月24日掲載) |