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◎色は心身に大きな影響 前橋駅からまっすぐ北に延びた表通りは今、欅(けやき)のしたたるようなみどりであふれていて、さわやかな五月の風に吹かれ、降りかかってくる樹液を浴びながら散歩するのにもってこいの季節です。みずみずしく、柔らかな木々の緑が青空を背景にして重なり合い、五月の風と光にきらめき、揺れながら、美しい緑の濃淡を見せてくれています。女優の中村メイ子さんは「爪(つめ)の中まで染まってしまいそうなみどり」と素敵(すてき)な表現をしていらっしゃいました。「おんもにでると/みどりのきもちと/つめたいきもちが/するね」。これはもうずいぶん前の五月に出合った、小さな子供のちいさな詩です。 ところで、緑色には毛細血管を広げて血流を良くしたり、副交感神経に作用して興奮を抑える働きがあるのは知られるところです。海外でも「アイリストグリーン」と呼ばれるインテリアの柔らかな緑色が人気を呼んでいます。自然を象徴する色でもある緑色は、人間にとって自然回帰の色、心と身体にリラクセーションをもたらしてくれる安らぎの色であり、暮らしの中で欠かせない色となっています。街中の樹木の緑、信号の青緑、緑で示された非常口などなど、緑色のもつ特質や感情効果を活用したものは少なくありません。 緑色に限らず、色が人間の心身にいかに大きな影響を及ぼしているかについて生理学、心理学、医学などさまざまな角度から多くの研究、実験がなされています。人間の感情や欲求が色に表現されることを解き明かしたのは、アメリカの女性研究家アルシュウラとハトウィックです。幼児の絵を中心にそれぞれの色彩が、どのような心理状態のもとに選ばれたかを綿密に調査、その結果を「ペインティング&パーソナリティー」という論文に、そして精神医学・精神病理学者の岩井寛氏は衣服や建築、絵画等の色と形にのぞく人間心理の深層を「色と形の深層心理」という本にまとめています。「色は触れたり、嗅(か)いだり、聞いたり、味わったりする人間の諸感覚の中でも特に、認識過程の最前線にあり、人間の知覚と深層心理に深く関(かか)わっていて、人間をより人間らしくするための起爆剤なのである」と。私たち人間が色に対しておこす生理学的な反応を見るべく、さまざまな色彩に対して脳細胞が反応(興奮)するまでの時間を測定した結果、赤や黄色は反応時間が速く、緑や灰色は遅いという結果が出ています。赤や黄色が情熱や興奮のシンボル、緑は静ひつ、安全、灰は暗鬱(うつ)、沈滞などの感覚や感情と関係があるのは、こうしたことからもうなずけます。このことは色の認識が単にメンタルな面に関わっているだけでなく、身体(生理)とも深く関わっていることを物語っています。 光りあふれる、殊のほかみどりの美しい五月は半面、体調を崩しやすく、心の病も多くなる季節でもあるようで、「五月病」などという病名まで生まれています。頑張りすぎず、みどりをいっぱいに浴びて、のーんびりするひとときもぜひもちたいものですね。 (上毛新聞 2003年5月15日掲載) |