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日本国連環境計画群馬支部長 小暮 幸雄さん(高崎市新保町)

【略歴】群馬高専卒。生産・環境施設の企画設計に携わり、1993年に株式会社ソーエン設立。日本国連環境計画創立に参加、同計画諮問委員。2002年10月に群馬支部を立ち上げ支部長。

イラク進攻



◎戦争は最大の環境破壊

 イラクでの戦争も終息に向かい世界情勢も一安心というところであるが、あらためて思うのは戦争が最大の環境破壊であるということである。リアルタイムに放送される映像を見ても破壊された油田で燃え上がる炎、兵器により要される化石燃料、放出される二酸化炭素・熱・粉塵(じん)等の量も並大抵のものではなく、これらが生態系におよぼす影響は計り知れない。ましてやこれが大量殺戮(りく)兵器であればなおさらであり、核兵器ともなれば環境にまき散らされる放射能は長い期間地球を汚染する。そしてこれらの環境破壊はイラク周辺だけの話でなく、舞い上がった汚染物質は偏西風により日本にも到達すると予想される。

 二十世紀の終わりになり、やっと人類は環境問題の重要性に気づき、国際社会でも真剣にとらえられ、自然と人類が共生できる循環型社会の構築が模索され始めた。しかし米国の同時多発テロ事件を発端に、今回の米英軍によるイラク進攻の軍事行動には、環境問題は無視されてしまったようである。戦争で兵器を使えば、環境に大きな負荷がかかることになり、兵器や物資の製造や輸送、破壊された施設の再建等、その総負荷は大規模である。

 環境を考えれば戦争はできないのは確かであるが、解決の道を武力行使でしか考えず、戦争を容認する国や社会は環境を軽視しているとしか思えない。まだまだ国際社会は、環境を重要視した社会を構築する段階にないのかもしれない。

 この日本ですら環境という言葉を重要視し始めたのはここ数年である。環境を語る前に、飢えや貧困、民族紛争、宗教紛争、そして独裁者による恐怖政治からの解放等、解決しなければならない問題が山積みなのかもしれない。そしてその解決は困難であり、その道筋さえつかめないのも事実である。

 しかし、その解決手段に戦争を容認してしまう社会では、その大義の前に環境問題は軽視されてしまう。このことが大きな問題であり、自然と共生する循環型社会の構築を唱えたところで戦争の前には、その声は届かない。戦争の大義が、独裁者からの民族解放か、大量殺戮兵器の排除か、あるいは大国の利権争いかは定かではないが、その結果として、自然と共生の道を模索している人々の努力が無視されてしまうのは悲しいことである。

 国内においては反戦の活動は見られたが、戦争による環境破壊はほとんど論じられることなく、自らの環境問題と考えている人は少ないようである。しかし、イラクで舞い上がった粉塵や煤(ばい)煙が遠く日本まで運ばれ日本の自然環境を破壊するように、環境問題は地球規模のものである。地球温暖化問題を見ても、日本におけるわずかな二酸化炭素抑制活動は、イラク戦争で排出された二酸化炭素の量の前には、無意味なものとなってしまう恐れがある。この戦争を教訓に、あらためて地球環境問題を考える必要があるのではないだろうか。

 日本は島国のため、目の前の事象だけにとらわれ、環境問題もその範囲で満足してしまう傾向にある。それは戦争が始まってからの反戦運動と同じで、実効性のない自己満足だけの活動となってしまうのではないだろうか。私たちの環境を守るため戦争を許してはならないし、継続的な地球全体の環境問題を考えていきたい。

(上毛新聞 2003年5月8日掲載)