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◎核兵器の拡散を防ぐ ウィーンの春は花と緑で美しい。白いマロニエの花と紫のライラックが新緑の中に映えている。緑の中の自転車道路をバロックの宮殿などを見ながら走るのは楽しい。このウィーンに、筆者が十二年間勤務した国際原子力機関(IAEA)がある。イラク戦争は終わった。IAEAはUNMOVIC(国連監視検証査察委員会)とともにイラクの核兵器査察で重要な役割を果たし、世界の注目を集めた。安保理の合意なしに戦争になったことは国連にとっては不本意なことであった。テレビに再三姿を見せたブリックス査察委員長とエルバラダイ氏は前および現IAEA事務局長であり、筆者にとって一緒に仕事をしてきた友人である。そこで今回はIAEAの役割を考えてみる。 IAEAはアイゼンハワー米大統領の提案によって一九五七年に設立された。その役割は「原子力の平和利用の促進と軍事目的への転用の防止」である。年間予算は約三百五十億円で職員の数は二千二百人である。約三分の一の額が核兵器の拡散を防ぐ目的に用いられており、約二百五十人の専門家が各国の核物質を監視している。原子力施設の核物質の量を詳しく測定し、転用がないかを調べている。また、核物質を扱う施設を監視するためにテレビカメラが取り付けられていて、数分間隔で写真を撮っており、それがウィーンのIAEA本部に送られてくる。先日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)ではこのカメラが取り去られた。このような緊急事態への対応策は緊急の理事会、国連の安保理で審議される。 イラクの場合、IAEAは国連のUNMOVICの要請を受けて査察活動を行い、結果は安全保障理事会に報告されてきた。最近、北朝鮮は核拡散防止条約からの脱退を宣言し、現在、査察は行われない異常な状態である。 もう一つのIAEAの重要な役割は、「原子力の平和利用の促進」である。原子力の利用は幅が広く、「放射線がん治療」から「原子力発電」まである。「がん」の治療は手術で腫瘍(しゅよう)部分を摘出するのが一般的な方法だが、器官を失い、手術後大きな負担を負うこともある。手術しないで放射線で「がん」を消滅させる方法があり、アメリカでは約半分の「がん患者」がこの放射線治療を受けている。患者に対して大変優しい方法である。世界には八億人もの栄養失調に苦しむ人々がおり、食糧の増産が必要である。IAEAは国際協力で農業の改良に力を入れ、放射線による「植物の品種改良」などで素晴らしい成果を得ている。このような貧困の削減に役立つさまざまな原子力利用の推進に約30%の予算を割り当てている。また、「原子力発電」は地球温暖化防止、電力の安定供給に役立つもので、安全確保を前提としてIAEAはその技術の改良と普及を国際協力で進めている。 このように、IAEAは「国際平和」、「貧困の削減」、「持続的発展」と幅広い役割を果たしている。日本はその経費の20%を分担し、貢献が評価されている。 (上毛新聞 2003年5月1日掲載) |