視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
林野庁林政課管理官 井上 康之さん(千葉市稲毛区天台)

【略歴】九州大学農学部卒。1987年、林野庁に入庁。北海道夕張営林署担当区主任、JICA専門家としてタイ王室林野局勤務。2001年4月から今年3月まで利根沼田森林管理署長。今月から現職。

山菜採り



◎自然の恵みを享受する

 山菜がおいしい季節になった。沼田に住んでいたときには、ゴールデンウイーク前後に採れたての新鮮なものを味わっていたのを思い出す。冬眠から覚めたクマは、胃の働きを活発にするため、イタドリの芽など苦味のある類(たぐい)を真っ先に食べるという。人間も古くからの知恵でこの効用にあやかっていたのであろう。

 以前は、フキノトウ、ワラビ、タラの芽などに限られていた山菜も、最近では、コシアブラやコゴミ、モミジガサに人気が及んでいる。アカシアやフジの花、柿の若葉などもてんぷらにするとおいしいと聞く。毒があるといわれているもの以外は何でも食べられるのかなと思ってしまう。昔の人たちはもっと多くの山菜を食べる術を持っていたに違いない。

 さて、山菜が身近になるにつれ、自分でも採ってみようと多くの人たちが山に入るようになってきた。一方で山を利用する人のマナーが問題となっている。コシアブラ芽を採ろうと根元からばっさり切る人がいる。ギョウニンニクやキノコなどは根こそぎ取り去ってしまう。

 人間同士の争いもある。地元の人たちは、自分たちが古くから利用しているところに都会の人たちが無造作に入ってくるとぼやく。都会の人たちは、山はみんなのものだから独り占めするのは良くないという。また、自然保護をうたう人たちは、少なくとも特定の地域だけは人為的な採取をやめるべきだと主張する。

 そこで、山を利用するルールをつくったらということになるが、そう簡単なことではない。人によってこの尺度は異なり、山によっても利用の仕方は異なるからである。山の所有者の意向や地域の慣習的な利用も考慮されなければならない。そもそも国有林の大半を占める保安林では、法律上、植物採取が厳しく制限されている。

 そうはいっても、やはり何かが必要である。ここで、以前この欄で紹介した「武尊山エリア整備・活性化推進委員会」のメンバーの意見を参考に一般的なルールを提案すると、こんな具合になる。まず基本的なこととしては、(1)ごみは必ず持ち帰る(2)たばこを吸う人は携帯の灰皿を持参する(3)排泄(せつ)物は地中に埋め、ティッシュなど腐りにくいものは持ち帰る、という点が挙げられる。

 次に山菜を採るときのルールとしては、(1)自家用採取にとどめる(2)次の人のために、または毎年継続的に利用できるように一定の量を残す配慮が必要(3)木の芽を摘むときには幹を伐採することなく手が届く範囲で分散的に行い、枯れることがないようにする(4)人為的な栽培や管理がされているもの、希少種などは採らないといったあたりだろうか。いずれも当該地が公的な里山であった場合である。

 何にもまして大切なのは山を敬愛する心を常に持ちつづけることであろう。つまり、豊かな自然を守り育て、その恵みの一部を享受するという謙虚な姿勢を忘れてはならない。皆さんも山を歩きながら自分なりのルールを考えてみていただきたい。

(上毛新聞 2003年4月29日掲載)