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◎歩いた跡が道になる 関東学園大学に着任して十年目を迎える。前の職場であった北海道大学は北海道の大自然と札幌の超近代的なまちなみとで環境的には非常に優れていた。札幌はマーケティング的にも重要なまちであるため、教育に研究に申し分のない環境であったといえる。 しかし、北関東に位置する本校にきて大きな悩みができた。それは北関東という地域や地方大学がもつ独特のライフスタイルである。首都東京まで約八十キロ離れているが、これを近いと判断するか、遠いと判断するか。これにはかなりの個人差が存在する。また、公共交通機関の利用が少なく一人で移動するため、人との接し方が自然に身につくような環境ではない。 そこで地域性をいかした特徴ある教育をいかように行うかであった。都会で生まれ育った人と違って本校の大半の学生は余計なものに染まっていない純粋な感性をそれぞれもっている。したがって、刺激に対する反応や吸収が非常に良い。この点に着目し、学生時代に多くの旅をさせようと考えた。国内旅行はすべて車で移動する。海外旅行はパッケージツアーを利用しない。つまり自分の足で歩くようにした。 ゼミ生を指導するに当たっての教育目標は、思っていることがその通り書ける、話せるである。自分のゼミに集まってくる学生はマーケティングに関心をもち、将来そのような関係の職に就きたい希望をもっている。そこで興味をもち関心のあるものに対しては必ず直接触れるよう試みる。当然そうするためには、太田にいるだけではできない。そして行われる調査旅行は学生の手作りで企画される。私はただの運転手であり、質問に答えるだけである。帰ってくると、熱が冷めないうちにリポートを書いてもらい、発表しながら議論する。またそれらの報告は教室で終わるのではなく、学外で発表できるようにする。 これまでに北海道、東北、近畿、四国、九州等全国を何度も調査旅行で出かけた。また、興味あるものが海外にある場合も同じである。韓国、サイパン、グアム、アメリカ、カナダ等が調査対象地域となった。サイパンには三十七のアパレル関係の工場がある。アメリカの統治領であるため、その条件を生かした製造が行われている。グアムではグアム大学に体験入学ができ、英語と海外の大学の新鮮な刺激を受けてきた。ここでは校内FM放送局に学生が飛び入りで参加し、DJをする衝撃的な出来事もあった。もちろん言語は英語で学生の反応もかなりのものであった。 韓国では市場見学も夜通しで行われ、活気あふれるパワーをもらってきた。また現地の学生たちとの旅行は言語の壁を越えた本当の国際交流が実現され、翌年には太田に韓国の大学生が来てくれた。アメリカの調査旅行はレンタカーの手配から毎晩の宿探し、地図を見ながらの車移動等かなり過酷なものである。 これらの調査旅行は共通点がある。それは帰ってきてからの学生の変化である。誰かが用意したものではなく自分たちの手作りであったため、見て感じたものすべてが自分のものになっているところである。つまり、道を歩く教育を受けるのではなく、自分の歩いた跡が道になる教育を受けるのである。これは将来彼らの人生に必ず生きてくるものであると私は確信している。 (上毛新聞 2003年4月18日掲載) |