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◎魅力的な国定忠治親分 ここは深い森の中、人間たちがあまり足を踏み入れることのない神秘的な領域に、奇々怪々として存在するきつねの世界なのです。ときは過ぎ、廃墟となりし古城にいつしかきつねがすみ着き、玉木山を根城としていましたが、だんだんと本丸に近づき、今では城山全体をわが物顔ですんでおりました。そして時々訪れてくる人間たちに驚いて、逃げ隠れするのでした。野外劇「きつねの嫁入り」は、こんなプロローグで始まります。昨年十一月三日の「ぐんま文化の日」、県庁の議会庁舎前で公演しました。 古城にすむ身分の高いまつ姫と山奥にすむゴン吉とのかなわぬ恋に、なぜか若くてカッコイイ(キムタクばりの)国定忠治親分が現れて、仲を取り持って結ばれるというお話です。いろんな人に相談しますと、「それは変だよ」「無理があるわね」と言われながらも、忠治に夢中になってしまった私は、あえて座奉行(祝儀をつかさどる人)として登場させるのです。 今なぜ忠治なのかと言われると、困るのですが、昨年の五月ごろから本や映画、ビデオなどを勉強するうちに、忠治は私の頭の中で何とも魅力ある男性像として出来上がったのです。そしていつの間にか、中肉中背で脂ぎった忠治のイメージはなくなっていたのです。 ある日のこと、忠治に追っ手が迫って逃げ道に困ったとき、ゴン吉の父っあんにきつね道を教えてもらい、役人をまいて無事に逃げ切ったことがあるのです。そのときの恩を忘れずに、ゴン吉の思いを何とかかなえてあげようと親身に話を聞いてやるのでした。 まつ姫の花嫁行列は弓張り提灯(ちょうちん)を先頭に長持ち、柳ごうりと続き、仲人、両親、お待ち女房、供の者などが続き、それはそれは豪華な輿(こし)入れとなりました。あたかも人間の結婚式を見ているかのように、きつねたちは振る舞うのでした。 花嫁はすげがさを差しかけてもらい、オガラの門をくぐり、姑(しゅうとめ)に手を持ってもらい、縁側から座敷に入るのです。誰が作ったのか、大きな蓬莱(ほうらい)台が用意してあり、女蝶(めちょう)、男蝶(おちょう)ならぬ巫女(みこ)さんが二人いて、固めの杯を交わすのでした。 忠治は役人や捕り方にすっかり取り囲まれているのを承知でした。座奉行の忠治とそれを見守る子分たちの緊張が高まる中で、結婚式は無事に終わるのです。御用提灯や捕り方の迫る中、きつねたちは次々と元の姿に戻り、逃げ隠れてしまうのです。そして、羽織、袴(はかま)を脱ぎ捨て、刀を持った忠治は子分たちに守られながら、赤城の山へと一目散に逃げていくのです。摩訶(まか)不思議なこの情景は、きつねたちの目にはどう映ったのでしょうか。 江戸時代末期、社会の申し子と言われた国定忠治は、博徒、人殺し、そして四十一歳で磔(はりつけ)という、常識からすればとんでもない大悪人なのですが、いちずでまっしぐら、義理と人情に厚く、生き生きとしていて、何と魅力的なことか。今のサッカーや野球選手のようにカッコイイのです。毎日、テレビや新聞を見ると、人殺しや戦争の話ばかりです。忠治は私たちに何か今の世の中の狂い始めた社会の歯車を教えてくれるような気がします。 (上毛新聞 2003年4月15日掲載) |