視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
元群馬高専非常勤講師 細井 千代吉さん(伊勢崎市末広町)

【略歴】群大学芸学部(現・教育学部)卒。小学校、高校で理科教師を務め、病気療養中の子どもが学ぶ県立東毛養護学校前橋分校で指導し、定年退職。2002年3月まで群馬高専非常勤講師。

新入生の親子に



◎わが子を温かい目で

 新入生の親子に、筆者の教師生活を振り返りながら、助言を試みたいと思います。

 まず大事なことは、何を目的にこの学校へ入ったのかということです。何を学び、何をやりたいのか、卒業するとき納得できるようにしましょう。それから、体調を崩さないことです。よく言われる「五月病」というのがあります。身体的にも、精神的にも疲れてしまった状態でしょうか。三月までの学校とは、通学方法をはじめ、何もかも様子が違います。周囲を見回すと、誰もが自分より優秀な人に見えて、自信を失ってしまうかもしれません。親御さんは、帰宅後の様子を注意深く観察してください。気づくことがあったら、早めに学校の関係者に相談することが賢明です。

 名門校に入れた人は、それだけで世間からは高く評価されていますが、満足してしまわないでください。そして、驕(おご)りは禁物です。人間、謙虚さを失うと信用も失います。能力を存分に発揮できるように、さらに自己を高めましょう。

 不本意ながらの入学だった人もいるかもしれません。そういう人は、今すぐに気持ちを入れ替えてください。あなたの、これからが大切なのです。親御さんは、そうした子供にこそ温かい目で接してあげることが何より必要なことだと思います。学校生活を意義あるものにするか否かは考え方次第なのです。親の一言、教師の励ましで「やる気」を起こすことは十分に考えられます。「大器晩成」の例は幾らでもあります。わが子の学校を卑下する親も少なくありません。本人のみならず、その学校の関係者が知ったらどう思うでしょう。安易な学校の比較は慎みたいものです。

 親がわが子を他人と比較して羨(うらや)んだり、とりわけ兄弟姉妹の間での比較や差別はよくないことです。子供にとっては耐え難い心理的拷問となってしまいます。親子という密着した間柄だけに、思慮もなく言葉を発してしまうことに注意しましょう。

 ある母親の場合、「子供の比較は禁物ですよ」と助言をした直後に、「絶対にしていません」と言いながら、「利発な上の子は……のに、この子は…」という言葉が出てきたときには、この子は立つ瀬がないと、憤りさえ感じました。

 同じ株の植物でも、強い光が当たるところの葉は面積は小さいが内部の細胞の層が厚く、光が弱いところの葉は薄いけれども面積を大きくして必要なだけの光を受けようとしています。

 遺伝子が同じはずの一卵性双生児でも、その成育環境が異なることによって、性格にも学力にも差が出ることは、ドイツのカイザー・ウイルヘルム研究所や、東京大学で双生児を対象とした研究報告にも見られます。普通の兄弟姉妹では遺伝子の組み合わせも、時間的な差もあり、長子と弟妹では立場も違います。個性や能力が異なって当然ではないでしょうか。

(上毛新聞 2003年4月14日掲載)