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◎原子力利用を象徴的に 先日、学会に参加するために、JRの高田馬場駅で下車したところ、電車の発車のチャイムがアニメの「鉄腕アトム」のテーマソングのメロディーになっていた。聞けば、アトムのつくられた科学省は高田馬場にあったということになっており、アトムの誕生日である二○○三年四月七日に向けて、アトム誕生の地ということで、このメロディーにしたとのことであった。ちなみに、アトムをつくった科学省長官の天馬博士は、群馬県生まれということになっている。 アトムのきょうだいというと、妹のウランちゃんが有名だが、アトムにはコバルトという男のきょうだいがいることはあまり知られていない。作者の手塚治虫は、原子力発電の燃料として有名なウラン235にちなんで、「ウランちゃん」という名前をつけたのだろうということはすぐに分かるが、コバルトという名前の意味が分かる人は少ないのではないだろうか。実は、コバルト60は、医療用具の減菌やがん治療、食品照射などの放射線利用に広く用いられている代表的なガンマ線源である。そういう意味で、この二人は、原子力の二つの大きな利用の柱であるエネルギー利用と放射線利用を象徴的に背負った名前をつけられているといえる。 この二人を比べてみると、時々騒ぎをおこして、やっかいだがとても重要で魅力的なウランちゃんと、あまり目立たないが、アトムやウランと同じ十万馬力の力を持つコバルトというキャラクター設定となり、エネルギー利用と放射線利用を象徴的に表しているようにも思われる。現在、原子力の利用において、エネルギー利用は、日本の電力の三分の一を担うまでになっており、あまり知られていないが、放射線利用もその経済規模はエネルギー利用を凌(しの)ぐレベルにまで成長している。 アトムのテレビ放映の開始は、一九六三(昭和三十八)年、今からちょうど四十年前であり、日本最初の本格的テレビアニメであった。実はこの年は、原子力利用において非常に重要な年である。日本原子力研究所東海研究所の動力試験炉で、日本で最初の原子力発電に成功したのがこの年の十月二十六日であり、この日は「原子力の日」となっている。また、放射線利用研究の中核的な研究機関である私の勤めている高崎研究所が、東海研究所に次ぐ日本原子力研究所の二番目の研究所として、高崎市に設置されたのもこの年であった。 その後の四十年間のこの分野の発展と世の中の変化は、信じられないほどであるが、今年、アトム誕生の年にあわせて、また鉄腕アトムのテレビ放映が始まるとのことである。原作や昔のアニメとは、違った切り口やキャラクターの設定になるかもしれないが、個人的には、ウランちゃんだけでなくコバルトにも登場してほしいと思っている。 (上毛新聞 2003年4月9日掲載) |