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◎サービス転換の時代 今、全世界の目がイラクに集まっている。国境を越えて西にシリア、イスラエルとたどって行くと地中海に出る。そこから左手にエジプト最大の貿易港アレクサンドリアの市街が遠望できるかも知れない。 この港町はイエス・キリストより三百年も前にアレキサンドロス大王が建設。武将だったプトレマイオス一世が、ここを都と定め、図書館を建てて、ギリシャの思想や文化を広めた。これが有名なアレキサンドリア図書館である。 集めた資料は五十万とも七十万とも称され、古代の英知を結集した世界最古にして最大の図書館と言われているが、二百年後、カエサル(英語読みでシーザー)に攻め込まれ、焼失してしまった。 歴史の混乱の中で、姿を消し、幾つかの伝説に包まれているが、それについてはルチャーノ・カンフォラ(イタリア、文献学者)の『アレクサンドリア図書館の謎』に譲りたい。 それから二千年。図書館は教会、大学、都市等に続々と建てられ、今や世界主要十カ国では十五万館に達した。日本でも公立図書館の普及率は50%を超え、二千六百館を数えるようになった。 太平洋戦争後、図書館法が生まれて五十年。「市民の図書館」を目指し、利用者が直接、本に触れることができる開架式に換え、児童書だけでなく、CDやビデオテープまで資料に加えて、貸出数や入館数を競うかに見える量的拡大への道をたどって現在に至っている。 政治学者の丸山真男は、ある本の中で、「戦争は一部の指導者によって惹(ひ)き起こされるが、国民の協力が無ければ、続けることは出来ない」と言っていた。学校の歴史教育と法による弾圧が思考を停止させ、十五年にわたる戦争を支えてきたのかも知れない。 誤れる指導者に詐かれることだけは避けていかねばならない。自虐にも尊大にも動かされない歴史認識を持ち、洪水のように押し寄せてくる情報に動かされやすい世論にも一定の距離を置くことも大切。 しかし、個人の資料収集能力と収蔵スペースの確保には限界がある。それらの課題に対し、サポートするため、系統的にストックした情報を提供するのが、図書館のレファレンス・サービスで、重要な仕事になっている。 バブルの崩壊は税の減収を招き、予算の縮小は図書館費の削減となって表れてきたが、これは利用者の増大した要求を抱える図書館には大きな打撃であろう。 「だれでも、いつでも、どこにでも」と努力してきた図書館は、ここで量的、全方位的なものから、方向性を持つ質的なものへとサービスを転換せざるを得ない。また利用者も無料貸本屋として活用するだけでなく、受益者負担をも視野に入れて、図書館の存在理由にも配慮してゆくことが必要だと思う。 「知は常に無知を統治するもの…。人民は知の力で武装しなければならぬ」と言ったのはジェームズ・マディソン(米国第四代大統領)であるが、この言葉と丸山の発言を考え合わせる時、われわれは「国民」から「人民」を超えて、知的な「市民」としての生き方を模索しなければならないと思う。 (上毛新聞 2003年3月28日掲載) |