視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
おてんまの会会員 鷲田 晋さん(上野村楢原)

【略歴】愛知県生まれ。立命館大学産業社会学部卒。民間教育研修会社に12年間勤めた後、1999年、上野村にIターンし、観光業に従事。村の住民組織「おてんまの会」会員。

村づくり



◎愛着を持って暮らす

 おそらく上野村で初めての冬季のイベント「内山節と歩く山里紀行2003」が二月一、二日、民間の団体「おてんまの会」で開催され、二十人を超す参加者が集まり、大成功に終わった。

 冬の上野村は、「雪が降らない」「道が凍る」「お祭りや行事がない」という、観光地としては悪条件の場所だ。実際のところ、春から秋までかせいだ「稼ぎ」を冬に全部吐き出してしまう収支構造である。観光立村として食べていくには、冬の集客対策を考えることが急務と言われ続けてきた。しかしながら、それに取り組んでいるのは、一部の民宿オーナーだけで、行政はリスクを恐れ、何もしてこなかった。

 「おてんまの会」は、行政の補助機関ではないが、冬の上野村に人を集める施策を何かしないと上野村は村として滅んでしまうという「危機感」と、失敗しても失うものがないということで、挑戦した。

 私たちの会がイベントを考えるときのスタンスは(1)「上野村でしかできないこと」「上野村ならではのこと」といった「地元にかかわる」こと(2)無理をせず、自分たちの暮らしの中のおもしろいことを「ありのままに」に紹介し、自分たちも楽しむ―ということである。そんなことで、「冬の上野村の暮らしを紹介する」というコンセプトから、「狩猟の話を聞く」「獣料理を食べる」「狩猟に同行はできないので動物の足跡や糞(ふん)を見に行く」「鍋などの温かい料理を皆で作る」などが出てきた。それに、以前からやってみたかった「神社・仏閣めぐり」をやろうということになり、前述のイベント開催に至ったわけである。

 さまざまなことがあったが、参加された方のお一人が、お礼のメールの中で次のようなことを書いてくださった。

 「一番強く感じたことは、さまざまな形があると思うのですが、縁あって住むことになった所を愛着が持てるほどよく知った上で暮らすことが、どこにいても大切なことではないかと感じてまいりました。いくら人を呼ぼうにも自分が好きでなければ、できませんものね!」

 この文章を読んで、上野村に愛着を持って暮らす自分たちと出会うことで、地域と自分との関係を見つめ直してくれる人が出てきたことは、私たちの活動の大きな支えになった。そして、「愛着を持って暮らす」ということが、「村づくり」はもちろん、「村外から人を招く」一番大切なことではないだろうか?

 「冬の上野村の暮らし」を楽しもうとせず、「こんな所に人なんて来るはずがない」と考えている間は、冬の交流人口は増えないだろう。どうやらお客さまが来ない一番の理由は、外的要因ではなく、行政や観光に取り組んでいる人たちの「内なる意識」ではないだろうか?

(上毛新聞 2003年3月21日掲載)