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◎穏やかさと温もりと 日だまりの枯れ草の中に咲く小さな花、イヌフグリの青が心にしみたのは、冷たく乾いた風が吹く二月でした。いま、吹く風に冷たさは残っていますが、三月の陽光の下、紛れもない春の佇(たたずま)いが広がっています。 春をイメージさせる色として「黄色」を挙げる人は多いようです。黄色は、待ち望む春の訪れへの期待・希望を込めた人々の思いの色なのでしょう。自然界を見渡しても、タンポポ、スイセン、モモなど春に咲く花々の多くが、シクラメンなどの冬の花々に比べて一様に黄みを帯びた色合いです。みずみずしく柔らかなヤナギの新芽をはじめとする木々の緑や、もち草や菜の花の葉など、野にある緑も同様で、いずれも「黄み」という「ベースカラーの統一」によってつくられた穏やかで温(ぬく)もりのある春の情景です。「配色調和のお手本は自然の中にある」と言いますが、春霞(かすみ)の中の山々の連なりや、そこに掛かる虹などもまた、色調のぼかしとか濃淡など「グラデーション・色みの自然な移行と明暗の階調の変化」というかたちで見せてくれています。どちらも配色調和のための重要な技法として挙げられるものです。 さて、明るい春の光のもとに展開される、今年のファッションコーディネートはどんな表情をもっているのでしょうか。素敵(すてき)なコーディネートのための要素として「トレンド」は知っておきたいものの一つです。 二十一世紀を迎えた時期から、カラー提案のコンセプトには「人間的なもの」がクローズアップされています。長期にわたる不況、テロ、戦争など先行きの見えない不安を抱えた人々に向けて、温もり感や、穏やかさ、幸せな気分などを感じさせる色合いが今年の春夏の流行色として提案されています。海外の色彩情報発信機関では「光と影」「バランス」をキーワードに掲げています。色の表現は多様ですが、ポイントとなる色はなんといっても「白」。陽光をいっぱいに浴びて色褪(あ)せたような、あるいは白さの中に強い色みを内包したような、穏やかで繊細な白のバリエーションです。そしてさらにブライトイエロー、ビビッドオレンジやピンクなどが光を意識した色として加わっています。明るいニュートラルカラーとダークカラーの組み合わせは、光と影のコントラストを思わせます。さらに気分をリフレッシュしたり、静めてくれるグリーン、ブルー系の色たちも加えて、バランスという言葉を多用した配色提案がされています。 これは洋服だけにとどまらず、ライフスタイル全般を充実させ、自分らしさを表現したいという消費者の思いをくみ取った上でのメッセージといえるでしょう。スタイリングによって着る人のこだわりや個性を盛り込める、実用性と柔軟性を備えたファッション提案です。 従来のような次々と作り出される「流行・もの」を追い続けた消費の時代は終わり、今人々の視線は、私たち一人ひとりの価値観や生きがいにまで深くかかわった「自己概念の熟成」に向けられているといえるのでしょう。 (上毛新聞 2003年3月20日掲載) |