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◎一日も早く保存修復を 先日、香港で会議があり、せっかくの機会だからということで足をのばして、ベトナム、カンボジアを訪問した。香港からホーチミン(旧サイゴン)までの所要時間は、空路で約一時間半。あっという間に到着した。 昔、「兼高かおる世界の旅」というテレビ番組があり、司会者から「もう一度行ってみたい街はどこ」の質問に、彼女は躊躇(ちゅうちょ)なく「サイゴン」と答えた。かつて、そこは「アジア一」美しいといわれていたアジアの真珠、プチパリだとも…。そんな記憶を胸に少しはフランスの面影があるかと期待していたが、メコン川のクルーズをはじめ、ベトナム戦争での悲惨な写真が展示されている戦争証跡博物館やクチの地下トンネルの見学などが多く、世界の企業が競って進出しているベトナム社会主義共和国の実像を知ることができなかった。いつの日か、日本と多くの共通点があるベトナムの文化を確かめる旅をしてみたいと思う。 私がぜひ訪れてみたいと期待していたのは、カンボジアの世界遺産「アンコールの遺跡群」であった。ベトナムからカンボジアのシェムリアップまで空路約一時間。空港から町まで、ところどころ日本の援助によって道路が整備されているが、ほとんどはバラス道である。 カンボジアと聞くと、フランスの保護下に置かれた時代以外は、内戦・飢餓・貧困…の暗いイメージが先に立ってしまう。しかし、九世紀から十三世紀半ばのアンコール王朝の栄光の時代の最大にして最も優れた芸術価値のある遺跡群の中で、アンコールワットは十二世紀初めに建造され、また、アンコール・トムは十三世紀初めに完成した。同じアジアの民族として誇りに思われる素晴らしいものがある。だが、この世界遺産の第一印象は「世界一美しい瓦礫(がれき)」であり、その神々しいばかりに荒れ果てた姿ではあるが、こんなに美しく壮大な宇宙を一体誰がこの地につくろうと思ったのか。この偉大な建造物は、いつまで存在し得るのであろう。建築学的見地に加え、芸術的価値は世界的に高い評価を得ている。しかし、風土や石材の材質による自然損傷に加え、内戦による破壊、戦略による傷みは激しいが、ポル・ポト政権が倒れ、治安の正常化と同時に現在は修復・保全作業が始まっている。その全貌(ぼう)をよみがえらせる日はいつくるのだろうか。 アンコール・トムも荒廃した石仏の微笑が私たちの足音を優しく包み込んでくれた。タプロムの寺院は、ジャングルの大自然が堅牢(ろう)なはずのこの建造物を押しつぶし、見事な芸術作品を瓦礫の山と変えている。その自然の威力を目の当たりにするために修復は行わないことが決まっている。榕樹(ようじゅ)の向こうでたたずむ女神像も、土に返る日を待っているかのようだ。 わが国も、日本国政府アンコールワット遺跡救済チーム(JSA)が保存修復などのプロジェクトに参加協力をしているが、一日も早くかつての姿に限りなくよみがえることを望むものである。 わが国も残された文化を大切にしたいものである。 (上毛新聞 2003年2月21日掲載) |