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◎ルール守り適正飲酒を 立春を過ぎると、春のいろいろな行事が始まります。卒業、入学、人事異動、花見等、春の日差しとともに慶事が続きます。日本人はこうした「ハレ」(日常とは違う祝祭性を伴った特別の日)の場を選んで酒を飲む習慣が今でも根強く残っています。 昔から「お神酒あがらぬ神はない」という言葉があります。敬神思想をもとに神に酒を献じて豊作や守護を祈願することや、酒を介して神と一緒に酒を酌み交わすことを目的に祭り等をしてきました。 この伝統を守りながら日本の飲食文化の中で酒は祭りや儀式の時には欠かせないものであり、現代の企業社会においても接待や社内行事、付き合い酒など、「酒は本心を表す」という西欧の言葉どおり、人間関係の潤滑油としての大きな役割を担っています。最近ではいわゆる新世代の人たちには従来の考え方が通用しないという言葉も耳にします。しかし、こうしたコミュニケーションの取り方に対して「非常に大切、儀礼として必要」と考えている人が企業人の3/4を占めているというアンケート結果もあります。 日常生活では原則として一日の仕事が終了した「夜」にしか飲まないという一般的な習慣や晩酌などの飲み方の背景には日本人のアルコール体質も無関係ではないと思われます。アルコールの代謝能力は個人の肝重量や体重が影響していますが、遺伝的には日本人は酒に弱い体質といわれています。この遺伝的体質は外的な要素では変化を受けにくく、訓練などによって酒に強くなるということはほとんどありません。自身の体質を知った上で適正な飲酒を心がけることが大切です。法律でも節度ある飲酒が規定されています。 特に命にかかわる危険性のある「イッキ飲み」はやめてほしいと思います。東京都内だけでも急性アルコール中毒で年に一万三千人以上の人が病院に運ばれ、その半数以上が二十代の若者と未成年者で占められているというデータがあります。過去十年間で少なくとも七十人以上の若者(特に大学新入生)が急性アルコール中毒で亡くなっています。 最近では中学生の約五割、高校生の約七割が飲酒経験があるとされており、その初飲動機で最も多いのは家族の勧めという調査結果があります。以前から年少者への性教育が進んでいますが、正しい飲酒方法についてもすでに教育に取り入れた国があります。社会に飛び立つ若者たちに飲酒をする心構えとしての予備知識や正しい飲酒方法を広めていくことを目的として製造メーカーや行政、関係機関の方々も広報活動を展開しています。初飲と同時にその正しい飲酒方法やルールを教示することが家庭や社会の大きな役割ではないでしょうか。 「飲み過ぎるのは、酒の本質で仕方ないのだから、人間が悪いのではなく酒が悪い」という考え方が通用したのが一九二〇年のアメリカ禁酒法でしたが、政治的失敗で十三年後に廃止されました。日本人は古くからお酒との良き付き合い方を考えてきた国民です。お酒への理解不足によって生じる「誤使用」を改め、ルールを守って適正飲酒をしていくことが、「百薬の長」と言われる酒と健康に長く付き合える秘訣(けつ)ではないでしょうか。 (上毛新聞 2003年2月18日掲載) |