視点 オピニオン21
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陶芸教室・赤城カルチャースクール清山主宰
清水 英雅さん
(富士見村赤城山)

【略歴】勢多農林学校卒。教員を務めた後、学校教材販売業へ転身。独学で陶芸を学び、1990年、現住所地に教室を開校。現在、前橋市内の公民館や老人福祉施設、専門学校でも教えているほか、市民展審査員などを務めている。

自然の営み


◎刺激受け新技法を開発

 朝から空っ風が吹いている。老体にはいささかこたえるが、私は軽自動車に乗り赤城山の工房に向かう。正面に見える赤城山頂には雲がちぎれちぎれにかかっている。今日もきっと風は申し分なく吹きまくるであろう。工房に着くと早速薪(まき)ストーブに火をつける。炎は燃え盛り、工房内をまろやかな暖かさに変えていく。梢(こずえ)のざわめく林の中を時おり鳥の声がキーンと響き、時期はずれの樫(かし)の実がカツンと工房のトタン屋根をたたきながら落ちていく。もうすぐ門下生たちも山に登ってくるだろう。やがて車の停車音とともに元気のよい姿が窓越しにあらわれる。それぞれに作陶計画を立て作り始める。初めのうちは話に花が咲くが、そのうちに作品作りに没頭し静まり返る。私はこの静寂がたまらなく好きだ、この静寂の中五感をフルに活動させ、作品を作るという一点に集中していく。

 赤城山での作陶生活を始めてから十数年がたとうとしているが、ここでの暮らしは自然が織り成す大きな営みはもちろん、小さな営みさえも見逃さずキャッチできる能力を私に与えてくれた。それは私の作品作りに生かされている。

 長年風雪に耐えてきた木々は次第に表皮にひびが入り、やがて剥(は)がれ落ち土に返り新しい生命を育(はぐく)む。そんな変化を予感させるようなひび割れ模様の美しさ、この美しさを表現したいと考え出したのが「ひび割れ」という新しい技法である。以後私の代表的技法になった。

 また冬の夜、舞い降りた雪は朝の冷気で凍りつき、雪のふわりとした感触とは違ってその先端をさらに細かく鋭く盛りあげて輝いている。この神秘的な美しさに釉(ゆう)薬を新たに工夫することで表現できた。その釉薬を「凍雪」と名付けた。

 夏の朝、松林の中で草取りをしていると何十匹というミミズの一群に出くわした。一瞬気味悪さを感じたが、次第に何十匹がうごめく様は私に生命あるものの美しさを感じさせた。私は何とかしてこの様を作品にあらわしたかった。それは陶芸では考えられない糸こんにゃくを練り込むことで表現できたのだ。

 どれもこれも自然の中での美しくもいとおしい小さな営みだが、私の制作意欲は十分刺激される。刺激を受けた五感はさらに新しい技法の開発へと続いていくのである。そして土で作品を作りあげるという行為は自然の営みの一つではないかという思いさえ私に抱かせるのである。

 そろそろ門下生たちも作品が完成に近づいているのであろうか、ぽつぽつと話し声が聞こえ出した。彼らも静寂の中作陶に打ち込み、やがて独自の作風をつくり出していくであろう。みな満ち足りた顔をして帰っていった。何を思いあぐねて吹きまくっていたのであろうか、今は風もやみ、日が落ちるのも間近である。私はまた軽自動車に乗り、冴(さ)え渡った空気の中、一段と光り輝く関東平野の夜景を眼下に眺めながら赤城県道を下った。今夜の夜景はことのほか美しかった。赤城山での山暮らしに感謝、感謝である。

(上毛新聞 2003年2月5日掲載)