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◎ゆとりとは時間のこと 教育について思うことを述べてみたい。まず、ゆとりある教育についてだが、学校教育を週五日制としたことにより、教育内容はそれだけ制約されざるを得ない。しかしながら、精神的にも肉体的にも成長著しい時期に、本来身に付けておくべき事柄は決して少なくないはずである。技術立国の技術大国を標ぼうし、国家の存続を技術に活路を見いだそうとする方向性に賛意を表するのならば、学習内容が貧弱化することにはある種危機感をもつ。「ゆとり」とは、週六日かけて、学習指導に時間を費し、より高度の内容を教え導くことではないのか。「ゆとり」というのは、その内容を簡素化することではなく、時間にある。学習権とは、子供が大人一般に対して、自己に学習を施せとする権利であり、文部科学省主導の学習内容の決定ではないはずである。おそらく週五日制の方向に賛同したのは、教師だろう。労働時間の短縮はうれしいことだと。 次に、英会話に力点を置く英語学習について述べてみたい。まず驚くべきは、中学英語教科書である。その内容全編英会話のオンパレード。外国の文物を取り入れ、これを咀嚼(そしゃく)し、高度の文明を身に付け、自国の文化水準を国際水準に高めるためには、書かれた文学を読まなければならない。日本にやって来た外国人は数年のうちに日本語を流暢(ちょう)に話す。しかし、この者たちも日本語を読む段になるとなかなか読めないという。あるフランス人が、日本語に接した最初の書物は、明治の文豪、徳田秋声という小説家であると言った。テレビで耳を傾けてもおかしな日本語ではない。ある尊敬する学者が、旧制一高を受験するためゲーテ全集を読破することを心がけ、ドイツ語が身に付いたということも聞いた。会話など現地へ行けばどうにかなる。外国語学習は、今も昔も変わらない。文章を一字一句辞書を片手に丁寧に読むもの、汗水たらすしかない。 さらに、愛国心を培うということについてだが、かつて「百年兵を養うはこの一戦にあり」という標語のもと富国強兵をはかった。しかし、この標語のもと、行き着くところは亡国であった。かような惨状を招来した国家の枢要に就いた人たちの誰が責任をとったのか。すでに半世紀を経た現代にあっても、私腹を肥やすことで公費を平然と流用する外務官僚、デフレ経済に対して何ら手だてがなく、揚げ句は国債発行と公共事業への投資で不況打開をはかるという、旧態依然の改革で乗り切ることしか考えが浮かばない政府・自民党の面々。このような現状のもとで、就職先が決まらない高卒者を見るとき、生徒を前にして勉強しなさい、教育を身に付けておくことが今あなた方に課せられた最善策です、と言うことの空疎なことか。「自国を本当に愛し国家のために何をなすべきか」。愛国心教育も必要という人たちに言いたい。失政に責任を負わず、私腹を肥やす官僚たちの身の処し方から始められよ、と。 (上毛新聞 2003年1月7日掲載) |