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◎世界記録誕生を演出 冬は毎週のように、日曜日にマラソンがテレビ放映されています。日本人はマラソン好きということで世界でも有名です。このことは二○○○年に開催されたシドニーオリンピックで、高橋尚子選手が金メダルを取ったことで、より拍車がかかったように思います。ちょっと前でしたら瀬古、宋兄弟、中山なんて名前をあげる人もいるのではないでしょうか。 日本陸上競技連盟では、主催マラソンでオリンピックや世界陸上の選手を選考しています。男女各三つあり、大会終了後、代表選手に選ばれる可能性があるかコメントを出しています。その大会は、男子は福岡・東京・びわ湖で、女子は東京・大阪・名古屋です。一般の人でも、日本陸上競技連盟に登録して参加標準記録をどこかの大会で突破すれば、出場することはできるのです。遠い存在ではありません。 そこで、県民マラソンやたくさんの市民マラソンのように、参加する機会の多くなった現在、実は身近であったマラソンを観戦するに当たって、幾つかの蘊蓄(うんちく)を述べてみたいと思います。 まず、男女別で「オリンピック」や「世界陸上」と同じように、大会を行っているのは日本ぐらいです。世界中で開催されているマラソン大会は、男女一緒に走っています。それにプラスして市民ランナー(ジョガー)も一緒です。何万人という参加者のマラソンを、テレビや新聞でご覧になった方も多いと思います。その光景を見ると、記録を狙うエリートランナー男女が最前列に並んで、その後ろに何万人もの市民ランナーが続きます。 ところが、ペースメーカーの存在があるのは、日本で行われているメジャーなマラソン大会でも、世界で有名なマラソン大会でも同じです。ここまで述べてきて、ちょっと複雑な相違になってきました。このペースメーカーは「オリンピック」や「世界陸上」では存在しないのです。では、ペースメーカーというのはどのような仕事をするのかというと、三十キロもしくは三十五キロ地点まで、世界記録が誕生するペースでレースを引っ張る選手のことをいいます。昔はラビットなんて言ってました。 マラソンにおいて、人間はどんなに鍛えても三十キロまでしかエネルギーが蓄積できずに、それから先はその選手が持って生まれた潜在的エネルギーを使っていくと、瀬古を育てた中村清監督は言っています。そのような過酷なレースで記録を狙うには、その問題の地点である三十キロもしくは三十五キロまで、世界記録誕生のために余分なエネルギーを使わず、選手間のけん制をせずに、レースを進める方法は合理的なのです。このことは誰が勝つかより、世界記録誕生が興味の中心であります。テレビを見ていて三十キロまでレースにあまり動きがないのはそういうことなのです。 整理すると、大会の目標が、世界記録を目指すメジャーなマラソン大会と、金メダルを目指し、優勝者に価値のある「オリンピック」や「世界陸上」では違うということです。 次回は、シドニーオリンピックの女子マラソン選手選考の舞台裏でも述べてみたいと思います。 (上毛新聞 2002年12月17日掲載) |