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キリンビール群馬支社市場開発担当課長代理
戸塚 久仁子さん
(高崎市宮原町)

【略歴】高崎市生まれ。キリンビール高崎工場入社。1990年以降、社会貢献を念頭に地域の交流イベントを展開。2000年に高崎ビール工場移転後から現職。支社創設以来、初の女性営業職。

姉妹都市プルゼニ市


◎ビールがとりもつ縁

 年の瀬が近づいてくると、今年一年を振り返りながら、年賀状の準備をし始めるこの時期は、クリスマスカードも楽しみなことの一つだ。毎年交換するクリスマスカードの中に、チェコからのものが何通かある。部屋の壁に飾り、送り主の顔を思い浮かべながら、それぞれの国の現在の様子や近況に思いをはせる。

 高崎市は現在、四つの海外都市と姉妹都市の提携を結んでいる。この中の一つにチェコのプルゼニ市(独語でピルゼン)がある。プルゼニ市は、チェコが世界に誇るピルスナー・ビールの発祥の地だ。七百年以上も前に造られたこのピルスナー・ビールは、ボヘミア地方の大麦、ホップ、ピルゼン地方の軟水で製造し、「ピルスナー・ウルケル(ピルスナーの源流)」として、現在も世界中で飲まれている。このビールの製造元のピルスナーウルケル社と技術提携をしていたキリン社がとりもつ縁で、一九九○年に高崎市とプルゼニ市が姉妹都市の提携を締結した。現在ほど民主化されていない東欧の都市との提携は当時では珍しく、「高崎市を文化都市に…」という松浦市長の熱意と関係者の方々のご尽力で実現した。

 これを機にピルゼン市ウルケル社の醸造技術者は来日すると、必ず高崎市を訪れる。九一年に来日した技術者は、同年秋に高崎に三カ月間滞在。滞在期間中は職場も生活もともに「郷に入れば…」で日本の生活を、という希望で「独身寮」に入居。受け入れ側の寮生も共同生活に当初は緊張気味だったが、限られた期間内での交流を企画した。企画したのは温泉は飲泉のみというチェコの習慣から当初は抵抗を示した寮の「大入浴場」の共同入浴や、寮生お薦めのこんにゃくや納豆、塩辛の試食、上毛かるたや剣道見学などだった。英語もチェコ語も通じない見ぶり手ぶりでの従業員の家庭でのホームステイ等々、技術者はたくさんの方々の協力と支援で実現したこの交流を、日本での最も印象深いこととして帰国。この技術者はこの後も来日するたびに高崎を訪れるが、食事会をと提案すると、「社員食堂で食べたカレーうどんを…」とのご所望。家族への土産は、必ず日本のカレー味のカップめんを買い込んでいく。

 ビロード革命にも代表され、九三年にスロバキアと分離、独立するまで、チェコの長い歴史の中で流血革命といわれるものがないのは、市民の憩いの場という基本的な役割のほかに、チェコ民族の政治的活動の集会の場に「ビアホール」が使われていたことも無縁とはいえないのではないか。ビール本来にある鎮静作用や開放感、日本人と共通するシャイで事を荒げない気質が根幹をなしているのかもしれない。

 国際交流を考えるとき、最初に「言葉」が通じないと、と躊躇(ちゅうちょ)してしまうことがあるが、自分の生活する中での自然な受け入れが何よりのもてなしであり、歓迎であることを、このチェコの技術者や研修生との交流が教えてくれたことだった。

 今夏、大洪水でモルダウ川がはんらんし、大きな被害を受けたというニュースを見たとき、わが身のことに置き換え、縁の人たちの安否を気遣う心や声を耳にする。こうしたことがすべての出発点ではないだろうか。

(上毛新聞 2002年12月16日掲載)