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◎富弘作品の力に驚く 東村立富弘美術館では二〇〇五年春の新館オープンに向けて、その準備作業が進められています。新美術館の設計者の選定については、すでに多くの方がご承知の通り、国際設計競技(コンペ)によって行われ、応募件数は、これまでの同種のコンペにおいて世界最多となりました。第一次と第二次の公開審査を経て、設計者は東京在住の建築家、ヨコミゾマコト氏に決定しました。その後、美術館関係者と設計者とで協議を重ね、間もなく、建物内部の基本設計が出来上がります。 インターネットによって全世界に呼びかけようという案は、新富弘美術館建設検討委員の県関係者によってなされました。これを受けて、同委員会と村が承認しました。 呼びかけをして四カ月後、世界各国から多くの作品が集まりました。CG(コンピューターグラフィックス)を自在に扱うなど最新の技術でつくられた作品やインドの山奥から届いた香辛料の香り漂う手書き作品など、千二百点余りが届き、村内のボランティアの方々を巻き込んだ、てんやわんやの選定準備の作業でした。関係者のだれもが、多種多様な作品に触れられたことを喜ばしく思いました。世界中の多くの人々が富弘作品を展示する美術館を建ててみようと思ったこと、つまりは、富弘作品そのものが持つ力に、あらためて驚かされました。また、地球上のあちこちに富弘作品と富弘美術館の名前が知れ渡ったインターネットにも、あらためて驚かされました。 新美術館内部の平面プランは、すべての展示室と部屋を円形の空間とし、それらを外接させて、その全体の外周を正方形で切り取った建物です。建物内部の検討を進めるに従って、円空間の持つ不思議な楽しさに引き込まれている自分に気づきます。今では、周囲からも言われていた円空間で展示することの難しさを克服していくという楽しさもあります。国際コンペによる募集からのこの一年間は、通常の業務に加えての作業でもあるため、大変ですが、私はやりがいのある仕事だと実感しています。 設計者は、美術館の関係者と住民の方々の意見を十分に取り入れた美術館建設を行いたいという、当初からの姿勢を崩すことなく進めています。こうした柔軟さには多くの可能性があり、より開かれた美術館を目指している富弘美術館にふさわしいものだと思います。 新富弘美術館に求められるものは富弘作品と周辺自然環境を、現代建築がどう生かせるかというところにあると言えるでしょう。また、富弘作品が、これらの空間に置かれた時、作品の新たなる見え方や、発見も生まれるはずです。 人口三千五百人足らずのこの山あいの地で、国際設計競技が行われ、すべて公開で審査されたことは、この東村にとってかつてない出来事です。そして、ここへ至るまでの作業は、県内外の多くの方々のご協力なしにはあり得ませんでした。ご尽力いただいている多くの方々とともに、私は、新美術館建設にかかわる者のひとりとしてこれからも力を尽くしたいと思います。 (上毛新聞 2002年12月15日掲載) |