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◎芸術・文化も発信したい ワールドカップ日本組織委員会の理事としてたくさんの芸術家や文化人の方々に参画いただいていたことは、あまり知られていない。 「サッカーのワールドカップなのになぜ?」と首をかしげる人も多いのではないだろうか。 思い出すままに挙げさせていただけば、日本画壇を代表されるお一人である平山郁夫氏、現代演劇の旗手とされる平田オリザ氏、代表的女性評論家の木元教子氏、女優であるとともにあの『ソウルの達人』『ソウルマイハート』の著者の黒田福美氏などである。 そもそも、2002年FIFAワールドカップ日本・韓国を開催することになった時、心ある多くの人々が、これを単なる「サッカーのお祭り」に終わらせたくない。日韓から世界に向けて多様なメッセージを発信したい。日韓友好はもとより、「平和」「文化」「環境」「共生」など人類共通の願いを、何か具体的な形で示すことはできないだろうかと考えた。 これらの方々を理事にお迎えしたのは、まさにそのような壮大な意図に基づいていた。 私自身、何人かの方に直接お目にかかり、理事就任をお願いした。その時、「ワールドカップの機会に、長きにわたって語り継がれるような、さまざまな文化行事などを企画していきたい」ということをひとつの「売り」にした。 そんなお一人が、平田オリザさんである。平田さんは、一九九八年のワールドカップフランス大会の時、フランス政府が関連事業の一つとして組織した国際演劇ワークショップに、日本を代表して招かれ、大きな成果をあげられた。また、韓国留学の経験を生かし、日韓演劇交流でも十二分の実績を持っておられた。まさにうってつけの人選であった。 しかし、理想と現実はまったく別である。大変申し訳ないことに、当時、財政的見通しがどうしてもたたなかった。そのため、国際サッカー連盟が必ずやらなければならないとした、開幕および閉幕関連行事以外には、本格的文化事業はほとんど実現することができなかった。平田さんをはじめとする方々が、その腕を振るう機会はついに訪れなかったのである。 そんな折、平田さんから『芸術立国論』と題する新著をちょうだいした。一読して「残念ながらワールドカップでは結局何もできなかったですね」というメッセージが込められているのを感じた。と同時に、芸術文化こそが、日本の閉塞(へいそく)的な現状を変革し、多様で重層的な新しい社会をつくり出す原動力になるとの力強いアピールも受け止めた。 宴(うたげ)の時は過ぎてしまったが、今後、ワールドカップの機会には実現できなかったことの一つでも実現し、進めていくことで、関係された皆さまにいくばくかでもご恩返しができればと思っている。 (上毛新聞 2002年12月10日掲載) |