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NPO法人シリモな群れ事務長 細谷 潔さん(玉村町福島)

【略歴】東京都出身。文教大卒。環境カウンセラー。幼児体育指導が専門。2001年、NPO法人を設立、職業や性、年齢、能力などの垣根を越えて、シリモ(アイヌ語・穏やかな)に群れている。

若王子の森


◎自然を五感で体験する

 私が群馬へ来て早十七年目を迎えます。それまでは、荒川下流の下町に住んでいました。小学生のころ(昭和四十年代初頭)は光化学スモッグ注意報が頻繁に発令され、昼間の外遊びもままならず、わずかに残っていた田畑も次々と宅地へ変わっていく環境で育ちました。

 しかし、神社の森でカブトムシやタマムシを捕ったり、池で手長エビを捕って、たき火で焼いて食べたり、セリやヨモギを摘んだ記憶があります。子どもたちは、異年齢でいつも群れていました。そして、良い遊びも悪い遊びも年長者から学び、ナイフとマッチをポケットに忍ばせて、日が暮れても泥だらけになって外で遊び続けられる、たくましく育つことができる環境でした。

 群馬に住んだ当初は、窓から赤城山や榛名山が望める毎日に、旅へ出ている錯覚を味わっていました。数年後「ネイチャーゲーム」という環境教育の手法を学び、学校教育や社会教育の現場で、子どもや親たちと地域の場で自然を五感で体験するボランティア活動を始めました。そしてこの水と緑の群馬県でも、自然に触れる体験の少なさや河川の汚染、メダカなどの生物の減少を知り、非常に驚きました。今では、家庭の生活習慣や子どもの遊ぶ環境は都会といささかも変わりないほどに全国的に広がっている、とボランティア仲間の共通の認識になっています。

 平成十二年、町に依頼され、町を良くするための提案書を出しました。私が今住んでいる玉村町は、児童公園や野原が少ないために、地域で子どもたちの遊ぶ姿を見かけません。そこで休耕田に一年間水を張ってヤゴやメダカやカエルのすむビオトープづくりを提案しました。ほどなく町から「もう池をつくっている人がいる」と紹介され、現在若王子(やこじ)の森所有者の山田知足さんと知り合いました。農地を昔の自然に戻そうと、一人でコツコツと池と森と炭焼き窯をつくっていた彼は、子どもたちに原体験(土・草・水・木・火・生物に触れること)をさせたいという私の申し入れを快諾してくれたのです。

 そこで私は、県内外の仲間に、環境をテーマとする町づくりをするNPO法人設立の呼びかけをしました。学生や行政職員、教員やボーイスカウト関係者、環境教育関係者、医師、主婦らのさまざまな立場、年齢の仲間が集まりました。法人名はアイヌ語の天候や気候が穏やかな静かな…という意味の「シリモ」をいただき、去年の春からNPO法人シリモな群れとして活動しています。しかし、これが世間を騒がす農地法違反や、地域が抱える環境問題に発展するとは思いも寄りませんでした。

 若王子の森では老若男女が集って、炭焼きやイモ作り、伝承遊び、ホタルの育成、タナゴ釣り、キャンプやクラフト、そして先日は結婚パーティーまで行いました。今は地面を掘り起こして、粘土作りからの焼き物を始めました。空っ風にも負けず、泥だらけになって、ああでもない、こうでもないと、イキイキワクワク遊んでいます。まだつたない経験の私ですが、原体験を通じて人の心が癒やされていくさまや、再生しうる自然環境と地域づくり、子どもたちの教育問題などを、若王子の森の活動を通してこのオピニオン21に掲載させていただきます。一年間、よろしくお願いします。

(上毛新聞 2002年12月7日掲載)