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日本児童文学者協会理事長 木暮 正夫さん(東京都東久留米市)

【略歴】1939年、前橋市生まれ、前橋商業高校卒。『また七ぎつね自転車にのる』で赤い鳥文学賞受賞。郷里に題材を得た作品に『時計は生きていた』『焼きまんじゅう屋一代記』『きつねの九郎治』などがある。

読書をしない子ども


◎生きる知恵に乏しい

 「えっ、そんなのあった?」と思われるかもしれないが、昨年十二月十二日に『子どもの読書活動の推進に関する法律』(「子ども読書活動推進法」と略)が公布された。一昨年の“子ども読書年”の理念を受け継いだもので、超党派の国会議員でつくる「子どもの未来を考える議員連盟」(扇千景代表)を中心に提出された法案だった。その第二条では、

 「子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付け、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的に環境の整備が推進されなければならない」と、定めている。

 何しろ、子どもたちの多くがまともな読書をしていない。「本がなくても子は育つ」ものの、育った子は“心の糧”が不足しているため、「人生をより深く考え、困難を乗りこえて生きる知恵や力」に乏しく、人生の目標もみつけられないまま、学校からも社会からもドロップアウトしやすい。これでは、国の将来が危ぶまれる。国としても何か手を打たねばならない。そこで、民間諸団体の声をうけ、「国づくり人づくりは子どもの読書環境の整備から」と、「推進法」が立法化されたのだった。

 条文中の「あらゆる機会と場所」を具体的にいうと、学校図書館、公立図書館、家庭。罰則はないが「家庭における保護者の役割」も条文化されている。のみならず、国と都道府県市町村には、「施策の策定と実施」ならびに、「財政上の措置その他を講ずるよう努めるものとする」とも定めている。

 国はここ十年、遅まきながら子どもの読書の重要性を認め、公立校を対象にした九三年からの「学校図書館図書新五カ年計画」に五百億円の予算をつけた。それでも文部科学省が制定した学校図書館図書標準の二億七千万冊に対し、四千万冊分が不足。この解消を目指して、今年から単年で百三十億円、五年間で六百五十億円が手当てされることになった。ただし、地方交付税措置のため、市町村が図書購入費として予算化しないと、教育全般や消防や環境衛生等の予算にも回されてしまう。
 きちんと予算化されれば、小学校で一学級あたり二万円近く増えるはずだ。予算化の要求は文書でおのおのの教育委員会や議会に提出すればよく、その手続きの詳細については「全国学校図書館協議会群馬支部」(小中学校は甘楽郡南牧村磐戸小学校内、高校は太田女子高校内)に問い合わせるとよい。

 学校図書館は九七年の法改正で司書教諭の配置(ただし、十二学級以上)も義務づけられ、環境整備が次第に進んでいる。これを、公共図書館や家庭にも広げていこうというのが「推進法」。県内七十市町村のうち、三十二の町村にはいまだ公共図書館がない。法が公布されているのだから、「全町村に公立図書館や児童図書館の設置を!」との要望の声を大にしていってほしいものである。

(上毛新聞 2002年12月3日掲載)