視点 オピニオン21
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トレーニング指導士 大谷 博子さん(桐生市宮本町)

【略歴】日本女子体育短大卒。3年間、中学校で体育教諭を務めた後、家庭に入り子育てしながら文化活動を始める。1977年児童文学の部門で県文学賞、81年には日本児童文芸賞新人賞を受賞。

幼児の体育指導


◎焦らずに練習繰り返す

 「さあ、始めるよ。お水とおしっこ行ってきて」。午後二時半、幼児クラス開始の時間です。「おねがいします」。指導者と子どもたちの元気いっぱいの声が、体育館に響きます。

 幼児の体育指導を始めて二十年。試行錯誤の繰り返しの中で、私なりの楽しい授業のあり方を工夫してきました。

 「♪だあれをだあれを捕まえよう…。マミちゃんにしようかな? やっぱりユウちゃんにしようかな?」

 今日の授業は「高オニ」から入ります。若い指導者の後から、きちんと一列に並んで走っていた子どもたちは、私の「ピイッー」の笛の合図で、「ワアッ」と歓声をあげ、散り散りに、高い所に向かって、逃げ出します。ロープに飛び付く子、鉄棒にぶら下がる子、跳び箱に跳びのる子、鬼になった指導者の私たちは、まだ高い所に逃げていない子を追いかけます。逃げ足の速い子は目を輝かせ、「鬼さんこちら」などと、鬼をからかってから、素早く身をかわして逃げたりもします。

 「ヨーシ、今度こそ捕まえてやるぞ」。私たちは、残念そうに悔しがり、再び、子どもたちと走ったり追いかけたりを続けます。

 昔からの遊びである鬼ごっこは、子どもにとって、とても大事な運動です。自分の都合に関係なしに、追いかけてくる鬼の動きいかんで、瞬時に、どこへ逃げれば良いのか判断し、移動します。また他の子とぶつからないように、身をかわさなければなりません。

 神経系の発達の著しい幼児期にとって、鬼ごっこは、必要不可欠な運動だと思います。

 跳び箱、マット、鉄棒のように、「技」を覚えていく運動は、段階指導や動作の繰り返し練習の中で、子どもたちは、その技のポイントを感じ取ってできるようになっていきます。

 「逆上がり」が初めてできた子が、とても自信をつけ、鉄棒大好きっ子になりました。「あのね、いっぱい鉄棒してたら、空中逆上りができちゃったん」と、誇らしそうに手のひらの頑張りマメを見せてくれたりもします。

 小さな達成感は新しい技への挑戦意欲をかきたて、いっそう運動能力を高めます。

 ハードルが、どうしても跳べない子がいました。一度止まってハードルをまたぎ、また走るという具合です。私は、その子の手を取って、走りながら跳び越える動作を何度も練習しました。何回か繰り返すうち、その子は突然私の手を振りほどき、一人でスタートしたのです。「できた! やったネ!」とほめると、張り切って何度も繰り返し、瞬く間に上手になっていきました。

 障害物を越える恐怖心が、越える喜びに変わったのです。繰り返しの練習はやがてスムーズな動きを生み出します。

 「好きこそ物の上手なれ」という言葉がありますが、幼児の体育指導のポイントは、焦らず、楽しく仲間と、いろいろな動きを、繰り返しの練習で、運動好きにさせていくことではないでしょうか。

(上毛新聞 2002年12月2日掲載)