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利根沼田森林管理署長 井上 康之さん(沼田市鍛冶町)

【略歴】九州大学農学部卒。1987年、林野庁に入庁。北海道夕張営林署担当区主任、JICA専門家としてタイ王室林野局勤務、環境庁自然保護局生物多様性条約担当などを歴任。

森林教室


◎木の良さ感じてほしい

 森林管理署では、地元市町村の行事に参加したり、小中学生、NGOなどを対象に森林観察や林業体験教室を開催したりする機会をいただいている。

 地元のお祭りでは、丸太切り、コースターづくり、火おこし体験などを企画し、身近な木材に接することを通じて森林、林業に興味を向けてもらおうと試みる。木のコースターには「国民の緑・国有林」、「利根沼田森林管理署」などと記した焼き印を押し、わが署の存在もちゃっかりPRする。

 丸太切りを見てみると、最初は子供たち自身が工夫して何とかうまく切ろうとする。やがて、つきそいの父母が「引くときに力を入れるんだよ」といって知恵を与える。最後にはおじいちゃんなどが出てきて「おれに任せろ」という展開になる。これ一つをとっても親子の絆(きずな)が生まれるものだと、木を通じた心のふれあいを認識する。丸太から出た鋸屑(のこくず)で遊んでいる子供たちもいる。木のにおいと温かさを体で感じて、木の良さをわかってほしいと期待する。

 森林観察では、森の中でできるだけ多くのものを発見をしてもらおうと、落ち葉の形、樹皮の肌触り、花や葉のにおい、木の葉のそよぐ音などにゲーム方式で注意を振り向ける。やがて子供たちは「こんなところにこんな虫がいるよ」と新しいものを見つけだす。年配の人たちになると、草木、花の名前のチェックに余念がない。これらの活動を通じて、自然を大切にする気持ちと山を利用するモラルを養ってほしいと願う。

 林業体験では、森林のはたらきとこれを維持するために必要な林業活動を説明した上で、間伐作業などを実践し汗をかく。参加者のほとんどは木を切るのははじめてで、一本切り倒すごとに歓声がわく。子供たちが大きくなって、あの森はどうなったかなと思い出し、自分たちで育てた木で家を建てたいという思いをよせてほしいと期待する。

 先日、ある会議で、登山のインストラクターを長年務めておられる地元の方から次のような意見をうかがった。「近ごろの都会の子供たちにはがっかりさせられる。山に登るときには、疲れた、あと何分で着くのか、腹が減ったという小言しか聞かれない。山頂では何の感動もない。山から下りてくると、忘れ物に気がつき、注意をしない先生が悪いと言う」。そういえばわが息子も同じようなことを言っていたなと思い出す。「そんな子供たちもいずれは山に登ったときのことを思い出して、いろんなことに気がつくときが来るよ」と別の委員の方がフォローしてくださった。

 われわれが森林教室を企画するとき、参加者たちに寄せる期待は計り知れないものがある。木や森林とのふれあいを通じて、森林を尊ぶ心を学び、地域の木をうまく使うことが山を守ること、ひいては地球を救うことにつながるのだとわかってほしいと願う。学校の先生方、地域や業界のリーダーの方々により多く参画していただき、この輪がさらに広がっていくことを期待する。

(上毛新聞 2002年11月16日掲載)