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◎生物学的知見を視野に 平成十二年度の国民生活白書によると、日本のボランティア活動は一九九〇年代後半から大きく伸びてきたが、まだ参加率は米英の半分程度にとどまり、特に三十歳前後の参加率が低い。少子高齢化社会を迎えた日本は、老後の生活保障を次世代に任せる公的福祉にも限度があり、ボランティアによる相互扶助がますます大きな意味を持つようになると思われる。この観点からも、ボランティア活動の拡大はこれからの日本にとって最も望ましい方向であると言えるが、平成十三年度文部科学白書をみても、ボランティア参加の経験は諸外国に比べて日本の子どもが最も少ない。 この四月から学校現場では完全週五日制が実施され、小・中学校には新学習指導要領が導入されて、自然体験やボランティア活動などの体験的学習が積極的に取り入れられることになった。この教育改革に対して、ボランティアとは元来自発的なものであるとする原則論的な批判もあったが、今の青少年にボランティア活動を体験学習として経験させることには大きな意義があると思われる。 未来を支える青少年の育成に対して、内閣府の「青少年育成に関する有識者懇談会」をはじめ、各地方自治体の教育機関も一様に青少年のボランティア活動促進を掲げている。しかし、こうした問題はこれまで伝統的に人文・社会科学的な立場から議論されることが多く、生物学的な立場からの発言はノーベル医学賞を受賞した利根川進氏の教育改革国民会議における発言以外には少ないと思われる。 近年、脳の画像診断の進歩により、これまで社会科学の領域とされてきた「心の問題」を画像として目で確かめることがある程度可能になり、子どもの「心」の発達も生物学的に研究する道が開けてきた。国際的にも学習機能を脳科学的な見地から研究する機運が高まり、既に経済協力開発機構(OECD)は「学習科学と脳研究」のプロジェクトを発足させ、米国も国立研究所(NIH)に研究機関を設立して脳科学の応用分野での研究を本格化してきた。日本もこの三月から文部科学省で「脳科学と教育」研究の検討会が開催されている。 脳の画像診断から「他人の気持ちを推し量ったり理解する能力(心の理論)」が存在する脳部位の研究が進み、そのような能力が子どもに発現してくる時期も特定され、そうした時期を逃さず重点的に思いやりの心を導入することの重要性が指摘されている。学校でのボランティア学習を利用して本物のボランティア精神を育てるには、同時に他人に対する思いやりの心を育てなければならないが、その時期としては四歳、および十歳ごろの人格的教育が重要視されている。夫婦共働きの時代には、子どもの人格的薫陶に広く祖父母世代を活用する選択肢も考えられる。子どもが世の祖父母たちの背中を見ながらボランティア精神を身につけるためには、祖父母世代の社会的自覚も一層重要になろう。いまだ仮説の域を出ない脳科学の分野も多いが、これからの学校教育におけるボランティア学習や家庭でのしつけの開始時期についても、このような生物学的な新知見を視野に入れながら再検討する方向に進むべきであると思われる。 (上毛新聞 2002年11月2日掲載) |