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NPO法人・日本福祉教育研究所所長 妹尾 信孝さん(渋川市折原)

【略歴】亜細亜大卒。難産の後遺症で四肢と言語に障害がある。兵庫県内の知的障害者施設の職員として16年カウンセリングに従事。自らの体験を基に教育、福祉、人権をテーマに講演活動を展開。

自然と人間


◎生命の源を敬い共生を

 物の豊かさは、人の心をむしばみ、時として人間生活を脅かすだけではなく、地球上すべての生き物を破滅に導く計り知れない恐ろしさを持っています。

 太陽、雨、大地など、私たちは自然の恵みを得て生きています。空気や水がなければ、人間をはじめ動植物、あらゆる生物は生きていけません。豊かさや便利さを追求するあまり、自然の大切さを忘れてしまっていたのでしょうか? 車の排気ガスや産業廃棄物など、人間の手で作り出されたものが、自然を汚し、動物の生態を狂わせ、地球そのものを傷つけさせてしまったような気がします。人が人を傷つけ、身体のみならず精神までも侵す「戦争」もまた、自然、否、地球そのものの生命を略奪するものにほかならないと思いますが、今なお、世界のどこかで化学兵器を持ち込んだ残虐な戦いが続いているのは残念でなりません。

 ある新聞記事に目が留まりました。さんご礁に映える澄んだ海、日本のダイバーたちにも人気のあるフィジー島が、年々、自然破壊が進み島民の生活を脅かしているとの記事でした。小さな島々が連なるフィジー島、島の一つにあるヌサウブンキ村の現状が克明に報告されていました。海面が八○年代より少しずつ上昇し始めたため、さんご礁の岩をセメントで固めて護岸するようになったのですが、それでも満潮時には海水が流れ込み、村の一部は水浸しになり、また、井戸には塩水が混じり、飲み水は雨水に頼っているということです。海面上昇は、世界中で地球温暖化への関心が高まった九二年の地球サミット以降、海水の温度も上がってサンゴが死に、さんご礁を餌(えさ)場にする魚も激減してしまったようです。狭い農地にタロイモを植え、漁で生活を営んでいた村人は、サトウキビなど商品作物に手法を転じましたが、大量の化学肥料や農薬を使用することで地力が低下するばかりか、それが流出して海を汚染するという悪循環で、生計に大きなダメージを受けている実態に驚かされました。

 オゾンとかフロンの言葉を聞いて久しい今日ですが、物があふれる豊かな国は、途上国の人々の暮らしに大きな危害を加えているように思えてなりません。地球温暖化についても何度も国際会議が開かれていますが、人々の関心は薄く、他人事のようにとらえる人たちも少なくありません。その立場にならなければ分からないのが人間なのかもしれませんが、着実に世界中で自然破壊が進行しているのは紛れもない事実なのです。

 地球が生き、自然が生きているからこそ、人間は生きていかれるのです。自然は生命の源、人間と自然は切っても切れません。人間にとって、都合のよいことばかり唱えていると、破壊した自然に滅ぼされるという悲劇が訪れないとも限りません。人間同士が傷つけ、憎しみあうことなく、人と人のつながりを築き、互いを認識、理解しあうことが、自然の生命を守り、はぐくんでいくのではないでしょうか? 勝手な振る舞いや思い上がりは禁物です。自然を敬い、感謝する心で、自然と人間との真の共生を図っていきたいものです。

(上毛新聞 2002年10月24日掲載)