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◎積極的に称賛しよう 近年、社会を驚かすような少年非行が相次いで発生し、平成十三年版・警察白書は平成八年から現在までを少年非行の多発期と位置づけている。メディアの報道も「十七歳」を特に問題視した時期があったが、こうした少年犯罪の多発を思わせる情報が氾濫(はんらん)する中で、多くの国民が少年犯罪を身近なものと感じ、このままでは青少年の未来像は暗いとする嘆きが後を絶たない。 しかし、先進諸外国の少年犯罪に比べると、日本の青少年はまだまだ桁(けた)違いに健全であると言えよう。凶悪犯少年の検挙人員のうちで最も多い強盗犯をみると、日本では人口比にして英、米、仏各国の二十分の一、ドイツの三十五分の一といわれる。従来から日本の殺人率は諸外国に比して低く、特に青年期の殺人率は近年顕著な低下の傾向を示している。日本は依然として諸外国に比べ格段に安全な国であることは疑いの余地がない。 さらに、最近の少年犯罪の低年齢化と凶悪化が強調されているが、これは共に世界共通の現象であって、特に低年齢化は犯罪に限らず、性的成熟をはじめ現代の社会生物学的な傾向として広く観察されている。一方、結婚年齢や死亡年齢のように、年々高年齢化のみられる分野も少なくない。近代の社会現象は年齢分布においても多様化がみられるのである。 また、テクノロジーの進歩はニューヨークの同時多発テロのように、意表を突く大規模犯罪を可能にしたが、このように人間行為の規模が拡大する傾向は、ことの善悪にかかわらず多くの分野で認められる社会現象であって、個人的な行為も「大きなことをする」範囲が拡大してきた。すべて人間行為にみられるこの多様化こそ、現代社会の宿命であり、少年犯罪も不可避的に凶悪さの幅を広げてゆく可能性が大きいと考えられる。 しかし、同様に少年の善行も多様化し、その幅を広げていることは確実であり、特に従来は考えられなかったようなボランティア活動が青少年の間でも広く行われるようになってきた。今や人間行為が善悪両面にわたって多様性を示し、犯罪も善行も両極端に向けてその幅を広げてきている。この一方の極端にある犯罪行為に対してはマスメディアも十分に世の耳目を集める取り上げ方をするが、善行にはそれほどの話題性を提供していないように思われる。 日本の社会はまだ「褒めること」の効用を十分に利用していない観がある。模倣は学習の基本であるが、情報化社会における犯罪情報の過多が模倣性の高い少年期の犯罪に多様性を与えてしまっているように、善行に対するポジティブな情報も少年期の心に大きな影響を与えるであろう。学校教育も新学習指導要領への対応により、多くの市町村でボランティア志向のプログラムを組んでいる。学力を犠牲にしてまで採り入れたこの試みをぜひ成功させるためにも、優れた子どもたちのボランティア活動を積極的に称賛することが望ましい。それによって少年期の行動を善行の極に向けて誘導し、多様化した少年期の行動規範を全体として善行側に移動させることも夢ではないと思われる。 (上毛新聞 2002年10月7日掲載) |