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◎奥深い「イマジン」の詞 まさに世界中を震撼(かん)させたアメリカの同時多発テロから一年余りがたった。日本の各テレビ局は一年前の映像を繰り返し放映し、画面は星条旗で埋まった。 旅客機に乗り合わせた人も、それを乗っ取った人も、そして、その旅客機が飛びこんだワールドトレードセンターで働いていた人も、救助に向かった消防士も、犠牲になった人も、また、そのニュースに釘(くぎ)付けになった人も、みんな「ヒト」である。ヒトがヒトの乗った旅客機を奪い、ヒトの働くビルに突っ込む。ヒトを助けるためにヒトが働き、そして死に、ヒトが嘆き悲しみ、そして怒る。 かつてジョン・レノンは名曲「イマジン」の中で「国がないと思ってごらん。むずかしいことじゃない。殺し合いの元もなくなり、宗教もなくなり、みんなが平和な人生を送っていると思ってごらん」と歌っている。この歌は一見単純な夢物語とでもいった詞であるが、読めば読むほど奥深い内容だとわかる。そして歌の発表以来三十年以上たつが、ジョン・レノンの想像通り(?)世界は正反対の方向へ動いている。 今年ワールドカップが開かれた日本と韓国のあるアジアでは、韓国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、北朝鮮と日本。また、中華人民共和国と台湾、インドとパキスタン、どこもかしこも兄弟げんかの真っ最中である。 「財産なんかないと思ってごらん。君にできるかな。欲張りや飢えの必要もなく、人間みな兄弟。みんなが全世界をわかち合っていると思ってごらん」。これも「イマジン」の一節である。 現在、マスコミが毎日のようにデフレ気味、デフレ傾向とさわぎ立てるほど経済状態はメチャ悪い。昔なら筵(むしろ)旗の一本や二本立ったのかもしれない。私は上記の一節を口ずさむとアフリカや北朝鮮などの飢えに苦しんでいる子供たちの姿が目に浮かぶ。日本より数百倍、数千倍の飢えに苦しんでいる人間が地球上にはたくさんいるのだ。そんな時、わが身のことしか考えない(私自身を含めて)人間は、経済状態について愚痴を言いながらも、天文学的に大きな無駄遣いをしているのが分かっていない。ジョン・レノンは全地球的な広い視野を持とうと訴えているのだが、現在の世相にもぴったりと当てはまる。 「天国なんかないと思ってごらん。その気になればたやすいこと。僕たちの足元に地球はなく、頭上にあるのは空だけ。みんなが今日のために生きていると思ってごらん」。これも「イマジン」の一節である。昔も今も金持ちは天国さえも買えるし、要領の良い奴(やつ)は地獄でもコネがきく。私には、今現在を精いっぱい生きるか、もしくは遠い将来の希望を見つめて、ただひたすら走るしか生きる術(すべ)はないのでしょうか。 ジョン・レノンは歌の中でこう繰り返している。「人は僕を夢想家だと言うかもしれない。けれどそれは僕ひとりじゃない。いつか君たちも僕たちの仲間になって、世界がひとつになったらいいと思う」。夢ですか? (上毛新聞 2002年10月6日掲載) |