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日本吹奏楽指導者協会会長室室長 児玉 健一さん(松井田町新堀)

【略歴】松井田町で学習塾を経営するかたわら、1978年に音楽グループ「からす川音楽集団」を立ち上げ団長に就任。96年に中国・承徳市栄誉市民。昨年6月から同集団名誉団長に就任。

日韓吹奏楽交流



◎音楽の素晴らしさ実感

 八月十六日から十八日までサッカーのワールドカップ(W杯)の興奮覚めやらぬ韓国ソウル市で「第一回日韓親善吹奏楽演奏大会」を開催した。

 この大会は「二〇〇二年日韓国民交流年記念事業」として位置付けられ、両国外務省や国際交流基金の後援のもとに実現したものである。

 発起人ということから本大会日本側事務局長に任ぜられ事前の準備交渉を任された。

 昨年六月、韓国側に提案するため初めて訪韓した。空港には韓国吹奏楽指導者協会会長ら十人に上る指導者らが真新しい仁川空港で出迎えてくれた。歓迎ムードの中で交渉は順調に進み、大会の大まかな概要が出来上がった。

 帰国後、早速日本での準備に取り掛かった。ところが、その直後に教科書問題が持ち上がり両国の関係が最悪。さらに八月には靖国問題で最悪のムードになってしまい、日本での準備状況の伝達など韓国側と打ち合わせ事項がたまっていたが、気まずくてなかなか連絡を入れられないまま九月に入ってしまった。

 そこへ韓国吹奏楽界の長老から日本語で直接電話が入った。「政治と文化交流は別物です。われわれは強い意志を持ってこの交流事業を成し遂げなければなりません」。私は感動のあまり涙を抑えることができなかった。

 長老から計り知れないほどの勇気をもらい、再び準備に入った。直後に同時多発テロが発生。日本から参加予定の楽団からキャンセルが相次いだが、成功させる強い意志だけは消えることはなかった。

 日本代表として富山商業高校、徳島商業高校、創価グロリア吹奏楽団、からす川音楽集団、それにアンサンブル二団体を含め、六団体総勢三百三十人の大訪韓団を組み、大会に臨んだ。

 初日、開会式後、韓国海軍軍楽隊が歓迎演奏。これには海上自衛隊東京音楽隊長が客演指揮者に招かれ、初日から友好ムードが盛り上がった。二日目からは両国を代表する吹奏楽団が演奏を披露。韓国側は気合十分で力強い演奏。日本側は演奏会を盛り上げるツボを押さえ、舞台と客席が一体となる演奏。圧巻だったのが大会のトリをお願いした創価グロリア吹奏楽団で、その卓越した演奏技術に支えられた熱演に演奏終了後も聴衆は総立ちとなり、アンコールを求める拍手が鳴り止まなかった。

 突然、舞台の演奏員がW杯の応援コール「大韓民国×××××―」を仕掛けた。会場を埋め尽くす日韓の若者の大合唱が始まった。そこへ韓国の長老が思いがけない行動に出た。貴賓室から身を乗り出し、大声で「日本×××―」…。会場に日本コールが延々と響き渡った。

 大会に並行し両国指導者の合同会議を開催。今後も定期的な交流事業を推進することで一致し、「日韓吹奏楽交流協会」を発足させた。日本側総裁には山本一太参議院議員が就任。山本議員の「音楽は民族、宗教、国籍、世代を超えるメッセージです」とのスピーチが身をもって実感できた大会であった。

(上毛新聞 2002年9月29日掲載)