視点 オピニオン21
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高崎芸術短期大学教授 飴屋 善敏さん(宮城県鳴瀬町新東名)

【略歴】スマイル唱法をアリゴポーラ氏に、指揮法をコロロイター氏に学ぶ。元宮城教育大教授。現在、高崎芸術短大で表現法を講義。松島の柏木島などに、不登校の子供たちと「創る村」を開設。

本物とは何か



◎21世紀プランの実現を

 「ほおぅ、この器には力がある」。骨とうの鑑定家は、生き生きした心地よい作品に出合うと必ずこう言う。これぞ本物!

 芸術作品は、高度な能力が総合的に均衡よく働くことによってつくり出されるのだ。

 世界に誇る陶芸家・辻清明は、作品を眺めながら、よく「これは宇宙だ」と言う。宇宙は、さまざまな力がバランスよく組み立てられて、生き生きと存在しているのだ。生命力とは、力のトータルバランスともいえよう。

 このバランスは、生命の動的形象であるリズムが組み立てられる時に生じるもので、生物により大きな喜びを与え、癒やし育てるものなのだ。宇宙界のバランスは、幾重にも重なって、その喜びを増幅するのである。これぞ、本物なのだ。

 さて人類は、一人ひとりの能力が次第に平均化し、民主主義社会を形成することになった。

 「どうあるべきか」を考える問題意識は、民主社会に生きる人間の必須の条件なのである。

 私たちは、二十一世紀に向けて何かしなければならない。しかし、この何をしなければならないか、を考える人は何人いるだろうか。さらには問題意識と行動との関係が課題であろう。つまり、それを実行する力があるかということが問われているのだ。

 今日、不幸にも人間は心も身体も能力のバランスを欠き、不自然で本物とは程遠い生き物になってしまっている。今世紀の課題は、平等で平和であることを条件にした人類の存続なのに。

 これらのことをふまえ昨年、群馬県は二十一世紀のプランを発表した。その試みは本物に触れ、生き生きした感性を柱にした、小単位でやる街づくりだ。まさに本物をモデルにする国興しなのである。大変注目すべき提案だろう。

 感性とは、生命活動を美的に実感できる総合力であり、世の中を正常にする特効薬でもある。

 改善や改革を町という単位で進める試みは、孫文が中国に民主社会を樹立しようとした時に唱えた「三序論」と一致するだろう。私が縦から横論と言っているものも同じで、少数で本物を求めてから、大勢に移す方法論は、祭りごとなどに人が大勢集まれば世の中が良くなるという考えとは正反対だ。

 誰しもが、このままで駄目だということには気が付いているだろうし、今までの改善の試みも、どれも効果がなかったと感じているのではなかろうか。とかく人々は新しいことには心が動くし、地域とか地方が大切にされる傾向が強い中で、二十一世紀プランは大変注目された。

 でも、私たちは長い間、統一された価値観を持つことを危険に思ってきたところがあり、何が本物でどのようなものをモデルにするかが分かりにくいのが現実だろう。今日の若者は、価値観の意識さえ薄くなってきているのである。

 だからこそ、このプランが必要だったのだろう。まず、「本物とは何か」の勉強会から始めるのも一つではなかろうか。

(上毛新聞 2002年9月11日掲載)