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上智大学文学部助教授 瀬間 正之さん(高崎市台新田町)

【略歴】高崎高校卒。上智大、同大学院修了。86年、ノートルダム清心女子大を経て、99年より現職。専攻は、古事記、日本書紀、風土記のほか、金石文、木簡など。古事記学会、上代文学会理事。

アニメ映画



◎明るい未来を見たい

 子供と映画を見に行った。かつてのベーゴマが「進化」したおもちゃを題材とした話である。遺跡に封印されていた闇の四神獣が復活して主人公たちの光の四神獣と戦う話であった。四神獣はコマに宿る守護神のような存在となっている。最近子供が「白虎(びゃっこ)」だの「青龍(せいりゅう)」だのと時折口走っていた訳をようやく理解した。先年、キトラ古墳に入れたデジカメによって千三百年ぶりに日の目を見た四神獣は新聞・テレビをにぎわせたが、四神獣の信仰は現代の子供の世界では既に日常化していたのである。

 この映画に限らず、最近のアニメは古代宗教・呪(じゅ)術を素材としたものが多いようである。四神獣ばかりではない。子供の口から「魑魅魍魎(ちみもうりょう)」だの「シャーマン」だの「巫力(ふりょく)」だの難解な言葉が出てくる。先に書いた「進化」の語をはじめ、どれもこれもアニメの影響らしい。

 これらのアニメはどうも未来を向いていないことが気がかりである。志向するところが、過去であったり、霊界であったりする。子供の世界ばかりではない。大人の世界でも安倍晴明がもてはやされたりしている。総じて後ろ向きである。

 私たちの子供時代のアニメは、いわゆるスポ根ものもあったが、その対極として未来もの、宇宙ものが多かった。いわゆるSFである。現実にアポロは月へ行き、二十一世紀までには火星までの有人飛行が達成されると信じていた。ところが今では人間が月に行ったことを知らない子供もいるらしい。科学万能信仰が横行していた高度経済成長の真っただ中、日本にも世界にも宇宙にも夢があった。その意味ではスポ根ものにも自分の未来への夢があった。天上の星を指さして、その星になることを夢見るシーンは象徴的であった。努力が正当に報われるスポ根もの、輝かしい未来を信じさせたSF。どうもこうした作り話は今では報われないらしい。

 良く言えば、高度経済成長期の物質中心思想が鳴りを潜め、呪術であれ、霊界であれ、精神主義的なものが台頭(復活?)してきたといえるかもしれない。県立歴史博物館の妖怪(ようかい)展も盛況だったようである。しかし、妖怪にも霊界にも未来はないだろう。

 アニメにせよ、映画にせよ、小説にせよ、現代の、あるいは近未来の全体像を描くことは今日不可能なのかもしれない。ナウシカ以来定評のある宮崎アニメにしても最近では未来像は出てこない。トトロ以来、過去が題材となっているように思う。文学の世界でも「全体小説」などという語は死語となり、文学史上の一概念に過ぎなくなってしまった。

 現代の世相を反映したと言えばそうなのだろうが、せめてつくりものの世界くらい明るい未来を見たいものである。

(上毛新聞 2002年9月6日掲載)