視点 オピニオン21
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ライター・エッセイスト 橋本 淳司さん(館林市代官町)

【略歴】学習院大文学部卒。「水と人」をメーンテーマに新聞・雑誌やネット上で執筆活動を行い、著書を出す傍ら、企業取材を通じ起業、経営の在り方を学ぶ。ネット上の企画オフィスを主宰。

水危機



◎日本の役割は大きい

 水不足を巡る紛争が世界各地で起きている。水を巡る争いは文明誕生当初からあるが、最近は人口急増と都市化、灌漑(かんがい)農業による過度の水消費がそれを助長している。

 水紛争は国際河川の流域で発生する。上流の国がダムを造ったり、たくさん水を使ったりすると下流に影響するからだ。中東のヨルダン川ではアラブとユダヤの二千年来の水争いがいまなお続く。チグリス・ユーフラテス川では、上流のトルコで世界最大規模のダム開発が行われ、下流のシリアやイラクを刺激している(ちなみにこのダムを造ったのは日本企業である)。トルコ人の友人は、「これからは水がトルコを裕福にしてくれる」と笑っていた。マレーシアとシンガポールは水の販売価格を巡って対立している。マレーシアは現在、飲料水千ガロンを約○・○三ギリン(1ギリン=約三十円)でシンガポールに売っているが、契約更新時に百倍の3ギリンへ値上げ要求。シンガポールは水の自力確保策として、生活排水を処理した水を代替飲料水にする準備をはじめた。汚水を含む生活排水の処理水を飲用に使うケースは珍しいが、「水欲しさでマレーシアの言いなりになるよりまし」と支持者も多い。

 日本は一見、水紛争と無縁のようだが、そうではない。実は穀物という大量の水を輸入している。穀物一トンの生産に対し水資源を約千トン消費する。日本の穀物輸入量は年間二千八百万トン超で世界のトップクラス。これは二百八十億トンの水を輸入していることになる。近い将来、水不足が世界共通の問題になると、水を買いあさる日本は世界中の批判にさらされるだろう。

 二十一世紀は水危機の世紀といわれる。その対策は、個人レベルでは節水である。水不足に苦しみ節水都市づくりを進めてきた福岡市は、一九九九年の一人一日平均の水道使用料が三百二リットルで、東京都区部の四百二リットル、名古屋市の三百八十二リットルよりずっと少ない。節水はやればできる。

 大きな視点で考えるなら、健全な水循環を取り戻すことを考えるべきだ。これまでは水を確保するため、ダムとか河口堰(せき)など、河川開発にばかり頼ってきた。これからは複合的に水源をとらえるべきで、TPOに応じた下水処理水や雨水の利用も必要。下水も雨水と汚水を分ける分流式が理想で、雨水のほうはただ川に流すのではなく、なるべく漏らして地下水涵(かん)養に充てるほうがいい。

 国際的な水紛争の解決に向けても日本の役割は大きいと思う。国際機関を通じた技術移転はもちろんだが、日本各地では、河川の流域に住む人々が一つのテーブルについて水を管理しようとする試みがある。こうした経験や取り組み事例を発信することで紛争解決の一助になる。

 日本はすべての水を河道に集めるという大規模治水事業をやってのけ近代化を達成したが、その限界も経験している。そうした経験と、近代化以前の川とともにあった時代の豊かな感性を取り戻し、世界に発信することが今後の日本のアイデンティティーになるだろう。

(上毛新聞 2002年9月1日掲載)