視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
前橋育英高校教諭・群馬陸上競技協会強化部強化委員長
安達 友信 さん
(伊勢崎市八坂町 )

【略歴】中之条高校、順大体育学部卒。86年から前橋育英高校教諭。現役時代は中距離選手としてインターハイ、全国高校駅伝、インカレ、国体などで活躍。監督では県総体、県高校駅伝など優勝。

ストレス



◎解消するにはスポーツ

近ごろよく「癒やし」という言葉を耳にする。そもそも病気やけがをしたときに主に用いられていた言葉であるが、これほど使われるのはそれだけ多くの日本人が生活に疲れている証しであろう。さらに薬事法の改正もありコンビニ等で簡単に買えるようになったドリンク剤は製薬会社の大きな収入源であるらしい。なぜそんなに疲労感を覚えるのだろうか。小・中・高校生は新体力診断テストの結果、運動不足により明らかに運動能力は低下している。大人たちも仕事の内容がOA化、機械化、自動化にともない筋肉労働は減少しているはずである。運動量が減っているにもかかわらず疲労感が増している理由は、ストレスの多い現代社会の構図にあるか、ストレスに対する耐性が弱くなっているかのいずれかであろう。それではそのストレスについて考えてみたい。

 われわれは自己調節的に体内の細胞内環境を一定に保とうとする生理的なメカニズムが備わっていて、環境や気候の変化にかかわらず毎日の生活をほぼ一定の状態で送ることができる。これをホメオスタシス(恒常性)という。そのホメオスタシスを崩すものにストレスがある。気温・気圧・化学物質、さらに空腹やのどの渇き・不眠・疲労などさまざまなものがストレスとして働いて身体に変調をきたし、不安やイライラが増す。

 スポーツや楽器の演奏、職人の技、技術の向上にはトレーニングが必要である。トレーニングは「運動への適応性」を狙ったものである。身体へいろいろな形での刺激を与えることにより、その刺激はストレスとなる。ストレスを受けた身体はさまざまな反応を示す。筋肉痛はその最も顕著なものである。しかし不快な筋肉痛も繰り返しているうちに起こらなくなる。これが「運動への適応性」である。適応性を得るには多くのストレスを克服する精神的なたくましさが必要となる。少子化に歯止めのかからない日本では、親の意識を子供に集中させられる。そこで親としては、日々成長する子供へ次々と押し寄せるストレスに対して、それを取り除くことに最善の手を尽くす。のびのびと成長していくであろうが、果たしてストレスに対する耐性はついているのだろうか。私自身も父親として考えてしまう。

 一方、働く大人たちはストレスをどのようにとらえ、処理したらよいか考えてみたい。ストレスの内容も、受ける人もさまざまであり一概には何とも言えないが、運動性を放棄して非活動的な生活を過ごせば、骨・筋肉は委縮し、ますます非活動的になる。この状態では心理的・社会的ストレスへの耐性が低下し、うつ病をはじめ、あらゆる病気を誘発する。そういう時は本来の動物性を取り戻すべきであるという。動物はもともと動き回り食べるという基本的な生活パターンをもち、運動はその中に位置付けられていた。したがって、毎日の生活の中でつとめて積極的に過ごす、そして好きなスポーツを行うことによって、骨・筋・脳を含めた体の調節機能が刺激され、元気になるのである。

 以上ストレスについて、体育教師が現場で感じていることを羅列したが、次回はさらに医学的な見地からみたスポーツについて考えてみたい。


(上毛新聞 2002年8月24日掲載)