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森の遊学舎代表 小森谷 浩之 さん(勢多・東村沢入 )

【略歴】北海道大農学部卒。家業の林業、建設業を営む傍ら、01年に村民と自然体験学校の設立を目指すグループ「森の遊学舎」を立ち上げた。東毛地区林研グループ連絡協議会長。

村長選



◎若者たちが公開座談会

 夕闇の空をカラスと一緒に夏祭りのお囃子(はやし)の音が渡ってきます。かつて私が通った小学校への道を思い出を踏みしめるようにゆっくりと歩きながら、今は閉校となった祭りの会場に向かいます。小さな村の懐かしい祭りが始まりました。やぐらの上には一生懸命鼓を打つ子供たちや今年初めて披露した笛役、音頭取りの若いお父さんたちがいます。夜店はビール以外全部百円、綿菓子や焼きそば、金魚釣りに子供の山ができています。消防団のお兄さん、お父さんたちが大忙しで動いています。とってもいい感じの祭りでした。家族的な祭りでした。

 今回の祭り、本当はないはずでしたが、消防団の四十代を中心に企画、開催されました。いろいろあり、いがみ合ってきたお年寄りの人たち同士もみんな今日はお客として訪れてくれたようで、みんな楽しそうに見ていました(自分たちの後継者がしっかりできたことを見てうれしかったのかもしれません)。「ああ、世代交代したんだなぁ…」とはっきり感じる祭りでした。

 私の村で二十五日、村長選の投開票が行われます。今回の村長選のために、この村で最初の公開座談会が先日行われました。素晴らしい座談会でした。どちらに偏ることもなく、そして二人の立候補予定者(現候補者)も真剣にお話をされました。この座談会、実は二十代の若者たちが企画し実現したのですが、私たち、村にどっぷり漬かった大人の中には、何か裏に意図があるのでは? とか、片方の立候補予定者に有利に行われるのでは…とか、疑ったり心配したりする人も多くいました。

 しかし、私たち大人が考えている以上に、若者は純粋で、まじめで、実行力があり、そして何より自分の村を大切に思っていました。その結果、本当に素晴らしい会となりました。そして、その最後に代表の学生が私たち大人に送ったメッセージは「東村の未来を決める大切な選挙となります。昔ながらの地縁血縁も大切ですが、よく二人のお話を聞いて、どうか自分の判断で僕たちの村長を選んでください。お願いします」でした。大人より次代を担う若者の方が物事の本質をつかみ、駆け足で走っていきます。

 思えば、この村にとって、この選挙はまるで最後の夏祭りなのかもしれません。あさっては投票日。村中をにぎやかな山車が走り、透き通ったお囃子が流れてきます。秋の気配がもう木々のこずえには漂います。願わくば、お金など動かない、最後の祭りにふさわしい、あの若者たちに胸を張って語れる祭りとなることを祈ります。この村の若者たちが私たち大人にあてたメッセージを、大切に、大切にしたいと思います。


(上毛新聞 2002年8月23日掲載)