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共愛学園前橋国際大学男女共同参画学習センター研究員  
臨床心理士 鈴木 志津 さん
(前橋市天川原町 )

【略歴】東京女子大心理学科卒。法務技官として非行少年の資質鑑別業務を担当。89年、児童相談所、小児科医院などでカウンセリング開始。96年から中学・高校でスクールカウンセラーを務める。

こころの専門家



◎自己決定や成長を援助

 昨今、不登校やいじめだけでなく、虐待や中高年の自殺の問題、さらに新聞やテレビで報道される凶悪事件に至るまで、現代社会におけるストレスや人間関係の難しさは厳しい状況にあり、心理的援助を求める人たちはますます増加する傾向にあります。

 かつて「こころの専門家」として誕生した「臨床心理士」も、旧文部省管轄の財団法人日本臨床心理士会が認定する資格として一九八九(平成元)年に発足してから、十年以上が経過しました。そして、群馬県の臨床心理士会(渡辺敏正会長)も今年で十周年を迎えることとなり、会員数も現在七十五人となっています。これまでの間、スクールカウンセラーの活動や阪神大震災、池田小事件の後の心理的ケアをはじめ、さまざまな分野の地道な取り組みにより、その専門性に対する実績が着実に評価され、社会一般の人たちにも広く知られるようになってきています。そして臨床心理士をめざし、社会に貢献したいという意欲ある若い人たちも増え、文部科学省も大学院において臨床心理士の養成カリキュラムを充実させてきています。

 その一方で、いろいろな民間資格でカウンセリングや相談業務にかかわっていく人たちも増えてきました。カウンセリングに対する社会的要請が高まる中で、長年、心理的援助に携わってきた立場の者として感じるのは、プロとしての職業的倫理意識やそれに伴う社会的責任に対して、あらためて厳しく振り返る必要があるということです。他人の内面的な世界にかかわっていくことは非日常的な作業であり、その危険性も考えながら慎重にかかわっていく必要があります。一般に誤解されやすい点ではありますが、カウンセリングはカウンセラーが助言指導し方向づけるのではなく、あくまでも相手の思いを尊重しながら、側面的援助から自己決定や成長を援助していくことにあります。

 残念なことではありますが、専門的な訓練や職業的な倫理意識を十分身に付けてきていないカウンセラーによって、時に相談者がカウンセリングの中で傷つけられることもあると聞きます。またカウンセリング場面という非日常的な関係の中で生じてくる親和的な感情を個人的好意と勘違いし、親しくなり過ぎて個人的な関係に発展してしまうという問題が起きることもあります。守秘義務の問題やプライバシーの尊重はもちろん、相手の生活を犠牲にすることは絶対にあってはならないことです。こころの専門家としては、単に問題解決や治療という狭い観点に立つのではなく、広い人間理解と“個人”の尊厳を徹底的に守るという心理的援助者の原点に立ち、職業的倫理に対する意識を徹底し、また同時にカウンセラー自身が自分では気づかない盲点や問題に気づかせてくれるようなスーパーバイザーをつけるようなシステムをきちんと整備していくことが必要であると思います。


(上毛新聞 2002年8月22日掲載)