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ぐんま天文台観測普及研究課長 
倉田 巧  さん
(高山村中山 )

【略歴】沼田高校、群馬大学教育学部卒。昭和54年から吾妻郡、沼田で小・中学校勤務。平成7年より県教委指導主事として、天文台建設に携わる。平成11年より現職。

消費社会



◎環境保全には我慢必要

 ここ数年、とても心配なことがあります。それは、日本経済の停滞・不況と自然環境の保全の関連です。

 前にも言いましたが、宇宙の中で、地球やそこにすむ生命が存在する確率は、ほとんど奇跡のようなものです。そして、生命が今後安泰に進化していくには、この環境をこれ以上悪くしないことは絶対条件です。しかし、そこに住む人間には多くの欲望があり、より便利により快適に、を求めます。この相反する二つの条件は絶対に共存できないものなのでしょうか。

 景気がよくなり、豊かになるということは「消費社会」がさらに進むということです。つまり、今の技術では資源を使い、環境をいじめます。環境は大切だが、便利がいい。多くの人々はこの矛盾に気づいていますが、具体的に手を打てないでいます。今のような不況の時代の方が、「省エネ」「リサイクル」が徹底し、自然には優しいのです(天文観測にもいい)。しかし、給料は上がらない、リストラが進むのは困るわけです。

 天文学や自然科学を少し勉強すれば、二酸化炭素、核廃棄物、有害な紫外線などが生命に及ぼす影響は容易に推測できます。そして、数十年後どんな地球になるか予想がつき、「京都議定書」のような方針が出されるのです。

 アメリカは自国経済のために「京都議定書」の実施から離脱し、開発国は豊かさを求めて開発をしています。ここには明らかに「自分だけは別」というエゴが見えます。普天間基地の代替施設も「さんご礁の埋め立て」に動いています。これらには、環境の「かの字」も見えません。国内だけでも環境省がOKを出さないとすべての事業は進まない、という規則をつくる必要があるのではないでしょうか。

 これらの矛盾や不可思議な政策を「変だ」と感じ、何らかのアクションを起こすには、多くの人々がまず「環境や自然に関する正確な知識」を得る必要があると感じます。次に「価値観」を修正していく必要もあるでしょう。たとえば、「豊かさとは何か」とか「夏は暑いもの。それをうちわと風鈴で楽しもう」とか。こういう変換を教育や行政は、もっと積極的に進めるべきなのでしょう。そして十年、二十年たてば、利権のための政治家は当選できなくなり、嫌々ながら政治も変わり、政策が質的に変換していくのではないでしょうか。

 星のことを調べていると、核のこと、生命のこと、いろいろなことが分かってきます。地球は大きな複雑なシステムですから、変化は顕著には表れません。しかし、目に見えるまで進むと、ほとんど復旧は不可能になります。あの「アラル海」もなくなろうとしているのです。いろいろなところで環境の話をしても総論賛成、各論反対です。たとえば、原発が危なっかしくて嫌なら、今の三分の二の電力使用にすれば、計算上は原発はいらなくなります。明日からみんなでやりましょう、といっても家に行けば、クーラーをつけて高校野球を見てしまうのです。

 われわれ生物は、地球環境が健全でなければ生きていけないのです。原始の時代に戻るわけにはいかないので、この大きな矛盾を解決していくには、まず人間が我慢するしかないのです。若い人たちが中心になって、十分な知識、自分の子孫のことを配慮する気持ちを持って、新しいシステムを構築していってほしいものです。


(上毛新聞 2002年8月13日掲載)