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渡良瀬川研究会代表幹事 布川了 さん(館林市尾曳町 )

【略歴】早稲田大学卒。鉱毒事件と田中正造の研究、普及を志して、渡良瀬川研究会を結成。鉱害シンポ、サケの放流、足尾植樹、谷中村遺跡を守る会、田中正造生家を守る会などの運動を進めている。

渡良瀬問題



◎孫の世代に希望を抱く

 草木ダム、渡良瀬貯水池等を筆頭に、県内ダムの渇水が報道されたところへ、台風6号が襲来、渡良瀬川流域の住民は心安からぬおもいでした。それというのも水源の足尾地方が、広大な公害荒廃地だからです。

 「森林は洪水時のピーク流量を三分の二にカットし、既設洪水調節ダムの四倍の働き。保水能力は既設ダムの二・五倍。年間貯留量は水田の九倍。森林は緑のダムといわれるゆえん」との、片田満廣さん(五月二十六日付本欄)の文と、「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」との田中正造のことばを、あらためて想起しました。

 ところで、となりの長野県では、議会多数派で、知事が不信任されました。「ダムなんて表向きだ。県議の利権を奪われることに対する危機感で不信任をやったんだ」と地元政界の関係者はみるとの評(七月六日付上毛新聞)もあります。長野県民の世論調査は「田中知事支持率66%」、「県議会側にとっては厳しい内容で、県議会の考えと県民意識のねじれが浮き彫りになった形」(七月八日付上毛新聞)と続報。今後の推移が注目されます。いずれにせよ「選挙」をくり返すことで、県民の意思が、知事・県議会に、より鮮明に反映されるのは良いことです。ここでも正造の「国民監督を怠れば、治者は為盗」を想起します。

 長野県では「治水・利水ダム等検討委員会」が、徹底した公開と住民参加で審議を重ねました。その意見を総合して、多数を優先し「ダムによらない治水・利水対策」を答申、それによって進行したのです。群馬県でも、他山の石とすべきかもしれません。

 ことしになって、私は佐野、桐生等で、正造を語りました。六月六日に前橋で、県庁の新採用の方々に話す機会を得ました。このことで感じた第一は「先人の業績を知らなければ、結局自分自身を知らないことに等しいのではないか。そうした思いから『渡良瀬問題を考える会』という課目を設定した」研修主催者の姿勢でした。感じた第二は、それにみごとに反応した若い職員の方々でした。話すことは自分の勉強にはなりますが、相手がどう受け入れてくれたかはまた別のことです。それが、数日後何通もの感想を頂いたのです。

 「歴史を知ること、地域に生きた人々を知ることは、これからの方向性を探る大きな力となるものだと思います。これからも県民の皆様から多くのことを学びながら、職員として成長していければと思っています」(女性)

 「布川様のお話を聞き、渡良瀬問題をしっかりと認識し、一県民一県職員として、この問題の解決と後世への伝達のために努力しなければならないと感じました」(男性)

 私からは孫の世代になる方々からの文面をくり返し読み、涙のにじむおもいで、励まされました。群馬県の未来に希望を抱きました。八月二十五日には、埼玉県北川辺町の体育館で、百年前に正造とともに村を守り抜いた青壮年男女についてシンポジウムをします。

(上毛新聞 2002年8月2日掲載)