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臨床心理士 樺沢 徹二 さん(渋川市行幸田 )

【略歴】東京学芸大卒。61年渋川北小を振り出しに教職に。98年渋川古巻小校長で退職。教育相談に携わり、退職後はスクールカウンセラー。東京学芸大、高崎経済大などで講師を務める。

キレる要因



◎心の触れ合いが希薄

 中学生十四人と二時間ほど話し合う機会がありました。このごろの中学生の率直な心の内面に触れることができました。特に印象に残ったのは、楽しい充実した生活とともに、キレることが時々あるという話題に多くの時間が占められたことです。生徒がキレる要因の中で、自分の話を最後まで聞いてくれない、自分の気持ちを理解してくれないなど、大人との行き違いからのイライラを強調していました。ゆとり教育が叫ばれる中、現実は多忙で人と人のかかわりを楽しみ味わう機会が希薄なのでは、との思いを強く持ちました。

 そんな中、最近、素晴らしい女教師に出会いました。教師歴二十年余のベテランの中学校教師です。その先生は、心が揺れやすい中学生の心を深く理解し、それなりに対応してきましたが、教師をしていて、子どもが学級担任に何を求めているのか、自分は生徒の求めに真正面から向き合い、自分の持つ力がどれだけそれに応じられたかが最近になって分かってきたと言って、次の二例を話してくれました。

 担任しているA子は孤立的な傾向が強い。母親から、A子は出産時の病気で一年間、母親とは別々の生活を余儀なくされた経験があることを聞いた。このことは母親自身の闘病もあって、出生後の一年間は心の触れ合いができずにいた。心ならずも、母親はこの子どもへの愛情を注ぐ機会を絶たれてしまう結果となった。自分の体調を整えることが優先されて、母親は自分が周囲に面倒をみてもらうこととなった。子どものことは気になるが自分のことで精いっぱいというところもあった。そこで担任としてこの生徒と個別にかかわる時間を多く持ち、担任の持つ母親性を発揮し、けなげに一生懸命に生きている姿に共感し、心の深いところで触れ合うことを心がけた。やがて、表情の乏しいこの生徒が生き生きした感情を表すようになり、いつしか友達の輪の中にいた。

 乱暴な言動が目立つB男との対応では、禁止や指示、教え諭すということよりは、私は君の味方だよという思いを持ち続けるよう心がけた。心の深いところにある弱みを見せられず、傷つくのを恐れて攻撃的になるのだと理解した。傷つきやすさを癒やし、安心して自分を開けるような対応をすれば、この生徒の苦しみは解放される、という思いが伝わると信じて接した。かたくなな心が柔軟になったと感じたとき、担任として生徒との関係が、一時的な母子関係を築いていたことに気づいた。生徒によって、自分の中に潜んでいた母親としての体験が、生徒の理解と指導に役立つことを教えてもらった。

 生徒と教師の話から、今日、生徒の心は開きにくい状況にあること、および生徒の心の理解は教師と生徒との相互作用の中で深まっていくものということが分かりました。これは子育てにかかわるすべての人に言えることではないでしょうか。


(上毛新聞 2002年7月30日掲載)