視点 オピニオン21
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コトバ表現研究所主宰・渡辺 知明さん(東京都品川区東五反田 )

【略歴】桐生高、法政大卒。「桐生青年劇場」で公演活動に取り組んだ後上京、調理師専門学校講師を務めながら「表現よみ」を研究。日本コトバの会講師、事務局長。ホームページhttp://www.ne.jp/asahi/kotoba/tomo/

印つけよみ



◎本がじっくり読める

 近ごろ、本にボールペンで線を引いて読むという方法が話題になっています。わたしも以前から「印つけよみ」という方法を工夫してきました。印をつけて文章を読むことには三つの効果があります。第一は、文章を理解するための集中力がつくことです。重要な語句を見つけだして、印をつけなければなりませんから、文章をぼんやり読み流さなくなります。第二に、印がつけられた語句が目立つようになるので、先に進んでも読んだ部分を思い出しながら読むことができます。第三に、あとで読み返すとき、重要な点に印があるので、全体を読み返さずに内容を思い出すことができます。

 ただし、どんな文章にもまんべんなく印をつけるというわけではありません。文章によって印のつけ方は変わります。やさしい文章ならば、とくに重要だと思われるところにつければよいし、むずかしい文章ならば、内容を理解するためにつければよいでしょう。

 印つけには確定した方法があるわけではありません。多かれ少なかれ、だれでも実行していることですから自己流でいいのです。ただし注意すべき点があります。印をつけるというと、一般には傍線を引くことと思われています。しかし、何行もまとめて線を引いたら、ほんとうに重要な語句がどれなのか分かりません。わたしの印つけの工夫は語句を単位とするところにあります。長くても七、八文字くらいまでの語句でとらえます。

 ご参考のために、わたしの実行している方法を紹介しましょう。印の基本は、マル、セン、シカクの三つです。マルは、主語(ダレガ・ナニガ)やテーマとなる語句をマルで囲むことです。センは、述語(ドウダ・ドウシタ)となる語句につけます。ほかにも、ダレガ・イツ・ドコデ・ドンナ・ナニヲ・ドウ・ドウスル・ナゼなどの要素にあたる語句にマルやセンをつける場合もあります。

 マルもセンも文中の語句を意識にすくいあげるつもりで大胆にさっとカーブさせてつけます。ですから当然、短い線になります。エンピツかシャープペンシルの2Bなら、滑りもいいし、消しゴムで消せるので便利です。

 最初のうちは、どの語句がマルなのかセンなのか分からず、つい長く線を引きたくなります。しかし、一文ごとに声に出して読んでみると、力を入れたい語句がどれなのか分かります。それがマルかセンの引きどころです。

 シカクは、文と文とをつなぐ語句を四角で囲むことです。文と文とのつながりには論理があります。文章の交差点がツナギのことばで示されます。「すると、しかし、つまり、たとえば、なぜなら、だから、……が、……から、……ので」などに注目すると、文章の曲がり角が分かるようになります。

 印つけを実行した人たちは、「本がじっくり読めるようになった」「人の話がよく聞けるようになった」といいます。あなたも今から実行してみませんか。


(上毛新聞 2002年7月28日掲載)